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vol.26|bistrot nous(ビストロ ヌー)

2025.05.01

隠れ家に集う
本場仕込みのフランス料理

尾崎牛のスネ肉赤ワイン煮込み。ベースのソースには赤ワインに加えて、甘みとコクを添えるポートワイン、さらにフォン ·ド · ヴォーを合わせて奥行きを出している。

秋葉原の喧騒を抜けて

訪日外国人の増加でますますカオスが極まる秋葉原。電気街口からこの喧騒を抜けて西へ歩くこと約5分、神田明神下の交差点を越えて昌平橋通りを北に100メートルほど進むと、左手に現れるのが「bistrot nous(ビストロ ヌー)」だ。フランス語で「私たち」という意味を持つ “nous” の文字が記された、控えめながらも品のある看板が目印である。
「実は母がここで “ ヌー ”という喫茶店をやっていたんです。それを引き継いで、カフェからビストロに改装しました(笑)」と話すのは、オーナーシェフの磯貝喜夫さん。芳林小学校(現・昌平小)から練成中学校(現・神田一橋中)へと進んだ生粋の“ 神田っ子 ” である。
大学卒業後、神田のダイニングバーでバーテンダーとして働く中で料理に興味を抱くようになった磯貝さん。しかし、当時の料理人社会の上下関係にはなじめず、思い切ってフランスへ渡った。「言葉がわからないから、怒られても気にならない(笑)」という豪快な精神で修業を重ねた の は、 パ リの 名 店「Au BonAccueil」や「L’Entredgeu」など。そうして技術と感性を磨いた磯貝さんは帰国後、母の喫茶店をビストロに改装し、2011年3月31日に「ビストロ ヌー」をオープンさせた。

大切な人とゆっくりと料理を楽しみたくなる店内の雰囲気。

オーナーシェフの磯貝喜夫さん。生粋の神田っ子である。

ノルウェーから直送されたサーモンのマリネ

ドアを開けると、足元には温かな色味のフローリング。革張りのソファと椅子、落ち着いたトーンのテーブルが、柔らかな照明のもとに配されている。テーブル席8、カウンター席5のビストロだが、左面がガラス張りで明るくなっていて、さらにソファの背面に大きなミラーが設置されているからか、空間が広く感じられる。壁の黒板の手書きメニューとオープンキッチンが、親しみやすい雰囲気を作り出している。
コース料理は3種から選べるほか、アラカルトも豊富。ノルウェーから直送されるサーモンや、フランス産のジビエ、さらに宮崎県産の希少な「尾崎牛」など、素材へのこだわりも際立っている。まずは定番料理でもある「ノルウェーサーモンのマリネ」(1,450円)をいただく。分厚くスライスされた切り身が2切れ、上品にお皿に盛りつけられている。厚切りの身の上にあしらわれたベビーリーフ、ディル、ヤングコーンなどの彩り野菜がサーモンのオレンジ色を一層鮮やかに引き立てている。皿上に走るオリーブのパウダーとスパイスはまるで抽象絵画の一部のようだ。どこから手を付けようかとしげしげと眺めてしまう。
酸味は強くない。北欧の海で育まれた魚の旨味が、ハーブとオリーブオイルによって洗練された風味に昇華されている。この風味を創り出しているのが、一晩漬け込むマリネ液。コリアンダー、スターアニス、クローブ、エスペレット(バスク地方の唐辛子)、塩、砂糖、ビネガー、オリーブオイルと、複雑に組み合わされた香味のバランスが秀逸だ。

黒板に書かれた手書きメニューがいい雰囲気を醸し出している。

ノルウェーから直送されたサーモンを一晩マリネ液に漬け込んだサーモンのマリネ。

希少な尾崎牛を使った赤ワイン煮込み

「特別なご縁があって、尾崎牛を使わせていただいています」と謙遜気味に話す磯貝シェフ。尾崎牛とは、宮崎県の畜産家・尾崎宗春氏が独自に育てる黒毛和種のブランド牛。一般的な和牛が約28か月で出荷されるのに対し、尾崎牛は32〜36か月と長期肥育されることで、赤身と脂のバランスが絶妙な味わいを実現している。1か月の国内出荷頭数は30頭と少なく、国内外の高級レストランから高い評価を受けている。肉の味は濃いのに、脂があっさりしているので毎日食べたくなるという評判だ。
日本の誇りなどとも称される尾崎牛の「スネ肉の赤ワイン煮込み」(3,900円)をいただく。しっとりと煮込まれたスネ肉は、ナイフがいらないほど柔らかく、口に運ぶと繊維がほどけて旨味がじわりと広がる。赤ワインにポートワイン、フォン・ド・ヴォーを合わせたソースは重すぎず、ブランド牛の上品な脂と調和し、後味は意外なほどすっきり。添えられたきのこのソテーやマッシュポテトの滑らかさが、全体にやさしいリズムを添える。クラシックでありながら、軽やかな味わいだ。
デザートは「マスカルポーネとブルーチーズのケーキ」(770円)。ブルーチーズの持つ個性的な塩味と香りを、マスカルポーネのやわらかな甘みが包み込む新感覚のチーズケーキである。濃厚ながらも舌触りはなめらかで、口に含めばふわりと香りが広がる。添えられた自家製キャラメルアイスのほろ苦さが全体を引き締め、余韻が残る。甘さを抑えた構成はワインとの相性も良く、デザートでありながら一皿の料理として完結した存在感を放つ。「定休日ではありませんが、神田祭の金土日は休みますよ(笑)」と話す磯貝シェフ。自身のルーツである神田への想いと、パリで培った感性が融合した「ビストロ ヌー」は、秋葉原の喧騒の外で静かに灯り続ける、隠れ家的な名店だ。

ビストロというだけあってワインの品ぞろえも豊富だ。

マスカルポーネとブルーチーズを用いた新感覚のチーズケーキ。

※金額は『法人なかま』発行当時のものです。

レポート◎山根和明(広報委員会)

食いしん坊手帖 vol.26

bistrot nous(ビストロ ヌー)

東京都千代田区外神田2-10-8
電話:03-3251-0080

  • 営業時間
    【ランチ】11:30~14:00
    【ディナー】18:00~23:00
  • 定休日
    日曜・祝日・月曜のランチ
  • 席 数
    13席(テーブル8席、カウンター5席)
    ※貸切応相談

当ページに掲載している情報は、『法人なかま』発行当時のものです。現在の情報とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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