
旬の魚と職人技。
ひと手間が光る魚好きの穴場

大将おまかせコースの一例。前菜、お造り、揚げ物、蒸し物、焼き物の順に出される。これにシメのご飯ものが加わる。ボリュームも満点だ。
都心で味わう西伊豆の幸
竹橋駅から徒歩5分、神田錦町の静かな一角に旬の魚を食べさせてくれる店がある。店名は「魚料理と酒 あじすけ」。店主の小宮諒介さんは西伊豆町出身の34歳。一本釣り漁師の家に育ち、幼少の頃から西伊豆の海で釣りをして育った。今でも故郷を想う気持ちが強く、店内には特製の大漁旗や西伊豆の夕日の写真などが飾られている。
「魚は父が西伊豆の海で捕ったものを送ってもらったり、地元の市場から仕入れています。イカ、アジ、マダイ、イサキ、メバル、シマアジなどはだいたい西伊豆で、それ以外は豊洲ですね。それと今、伊豆半島はシカがものすごく増えているんです。人口よりもシカのほうが多いなんて言われているくらいで。地元の仲間がシカやイノシシの猟をしているので、魚介類だけでなくジビエもださせていただいています」と小宮さん。
大学を中退し、さまざまな飲食店で修業を重ね、2021年に独立した。和食がメインながら、中華料理やカレーなども得意だという。店内はカウンター席が5席、テーブル席が14席。こぢんまりとしていて、気心知れた仲間と旬の味覚を楽しむのにうってつけだ。

お造りも豪華。特に秀逸だったのがアマエビの昆布締め。旨味が倍増されていた。

カウンター5席、テーブル14席のこぢんまりとした店内。「法人なかま見ましたよ」と伝えると、最初のドリンク1杯をサービスしてくれるとのこと。

故郷である西伊豆愛が強い34歳の店主。「土日祝日は釣りに行くので休みますが、10人以上の貸し切りなら対応します(笑)」。
素材に磨きをかけるひと手間
メニューはコース料理のみ。基本は「大将おまかせコース」(6,000円~※)。内容は前菜3品、お造り、お料理3品(焼き物、蒸し物、揚げ物)、シメのご飯。これに飲み放題(2時間半)を付けたコースが9,000円※、お料理を1品と小鉢にしたハーフコースが4,000円※である。
この日の前菜は「ウルイのおひたし」、「ツブガイのうま煮」、「なめこ豆腐」。本格的な懐石料理ならいざ知らず、普通の居酒屋の前菜は、あくまでも酒のあてのような存在である。特筆すべきものではないはずだが、あえて書かずにはいられないほど上品で深い味わいである。聞けば、おひたしは羅臼昆布と鰹節、干しシイタケ、イリコで出汁を取っているという。しかも煮出すのではなく、時間をかけて水出しで取っているというではないか。
続いてお造り。この日はミナミマグロ、ニシン、クロムツ、イワシ、マダコ、アマエビ、サザエ。内容は季節や日によって異なる。ニシンとイワシには飾り包丁が入れられている。クロムツは皮が炙られている。そして、アマエビは昆布締めだ。ある著名な料理人が「刺身とはいえ、ただ魚を切って出したものは料理とはいえない。切り身にひと手間を加えることにより、素材に磨きがかかり、初めて料理となる」と言っていたが、いずれも、ひと手間を加えることにより素材本来の味をさらに昇華させていた。

西伊豆の老舗水産会社「入久」特製のサバの干物。同店の干物はすべて入久から仕入れている。

小宮さんイチオシの日本酒が「喜久醉」。南アルプスの豊富な伏流水で造られている。雑誌「ダンチュウ」の「毎日でも飲みたい酒」の部門で「喜久酔特別本醸造」が1位に選ばれたことがある。
お値段以上の満足感
続いて、揚げ物。見慣れない魚が丸ごと一尾、カリッと揚げられている。「 中骨は 無 理ですけど、それ以外の小骨は食べられますからかぶりついてみてください」と店主。背中からかぶりつくと、ふわふわした食感で濃厚な旨味が口の中いっぱいに広がった。
「実はこれ、エボダイなんです。年中入荷できるわけじゃないんですけど、唐揚げがとても好評です。冬から春にかけてお出しすることが多いです」と小宮さんは満面の笑みをたたえる。エボダイといえば干物が一般的だが、丸ごと揚げることで外は香ばしく、中に脂が封じ込まれてふっくらと仕上がるのだった。
この日の蒸し物はアンコウの鍋仕立て。アンコウ鍋といえば、茨城県のどぶ汁に代表される味噌仕立てをイメージしがちだが、東京以西の地域では醤油味も多い。しかし、このスープは澄んでいて醤油ベースでもなさそうだ。
「他の料理とのバランスを見て、焼き物があっさり系の魚だったらドブ汁仕立てにもしますが、今日はサバ焼きなので、あっさりスープにしました。ヒラメ、マゴチ、フグの骨を4時間煮て取った出汁に、薄口しょうゆとみりんを少しだけ入れました」と小宮さん。澄んだスープを一口すすると、ふわりと広がる魚の旨味。ヒラメ、マゴチ、フグで出汁を取ったアンコウ鍋のスープは、なかなか他では味わえない。
話をうかがっていると、一品一品へのこだわりと、素材のポテンシャルを最大限に引き出そうとする魚への愛情がひしひしと伝わってくる。漁師の家に生まれ、幼い頃から西伊豆の海と共に育ったからだろう。
「シメなんですけど、基本は魚介のスープを使った雑炊などが多いですが、リクエストに応じて焼きめしやカレー、麺類もやっています。予約の際に決めていただけるとご希望に添えると思います」。
インテリアに小洒落た装飾もなければ、食器や盛り付けに奇をてらった演出もないが、料理はどれも一級品である。まさに、お値段以上の満足感だ。

エボダイの唐揚げ。滅多に見かけない料理だが、一度食べると記憶に残る。

この日のシメはシカのスジ肉カレー。ジビエ料理も得意だという。
※金額は『法人なかま』発行当時のものです。
レポート◎山根和明(広報委員会)
食いしん坊手帖 vol.25
東京都千代田区神田錦町2-9 中山ビル
電話:03-5244-5233
- 営業時間
【平日のみ】17:00〜24:00(L.O.23:00)
- 定休日
土曜・日曜・祝日 - 席 数
19席
※10名以上から貸し切り可能
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