
絵本専門店の奥にある3坪の秘密基地

元々は書店の倉庫だったという3坪の空間。
本に囲まれた空間
世界最大の本の街、神田神保町に秘密基地のようなバーがある。「ブックバー リリパット」である。営業時間は20〜23時。L 字型のカウンターにはバースツールが5脚。広さは3坪。日中は閉ざされているビルの裏手の小さなドアが、基地への唯一の入り口だ。バックバーにはウイスキーやバーボンのボトルが並ぶが、普通のバーとは何かが違う。整然と並べられたボトルやグラスを囲むように、本がずらりと並んでいるのである。
「このバーのスペースは元々、書店の倉庫だったんです。日中はカフェとして利用されている空間が隣にあり、お客さんが多い時は、そちらも使います。このカフェのスペースは、元々は書店のバックヤードだったんですよ」と話すのは、同店の今本義子社長。店の前身は「ブックハウス神保町」という絵本の専門店なのである。どういうことなのか。話を20年前に戻そう。
古書店が建ち並ぶ神保町の靖国通り沿いに、ヨーロッパ調の重厚なビルがある。1902年創業の北沢書店のビルである。洋書専門の老舗で1階は新刊、2階では古書を扱っていた。2005年、この1階部分をテナントとして貸し出すことになり、ここに絵本文化を守るべく大手出版社が中心となって作ったのがブックハウス神保町である。オープンから12年が経ち、役目を終えたということで2017年に閉店が決まった。当時、2人のお子さんを育てていた今本さんは、同店の熱烈なファンだった。そしてまた、今本さんは北沢書店の北澤一郎社長の妹でもあり、ブックハウス神保町は実家の持ちビルのテナントということにもなる。
「元々、絵本が大好きでしたし、この場所を書店以外にしたくないという強い思いがありました。書店の借り手が見つからないなら、私がやるしかないという思いが日に日に強くなりました」。とはいえ、毎月家賃を納めねばならない。新刊本だけではやっていけないことはわかっていたので、カフェを併設することにした。そうして2017年5月5日のこどもの日にオープンしたのが「ブックハウスカフェ」である。

靖国通り沿いにあるヨーロッパ調の重厚な建物。

夜間のみ入れる秘密基地への入り口。

経営者として手腕を発揮している今本義子さん。
NHK「ドキュメント72時間」でも放送
出版科学研究所の調べでは、2003年には2万880店あった書店数が、2023年には1万918店まで減少している。20年間で48% の減少となり、特に小規模店舗の閉店が目立っている。一方で、総売り場面積は大きな変化がなく、1店舗あたりの平均売り場面積は増加傾向にある。これは、店舗の大型化や集約化が進んでいることを示している。そして、「ブックハウスカフェ」のようにカフェコーナーを店内に設ける書店も増えている。新刊本よりも、コーヒーのほうが利益率が高いからである。今本さんは、ここに勝機を見出したのだ。
「ですが、実際にやってみると、カフェの売上は目標の半分程度で、このままだと続けられないと思いました。そこで思いついたのが、店を閉じた後のバーの営業です。とにかく必死でした。結果的に、絵本専門店が夜はバーに変わるということで注目されるようになったのです」と話す今本さんの目論見通り、メディアに取り上げられるようになり、遠方からの来客も増えた。土日祝の多い日は来客数が1,000人に達することもある。2022年6月には、NHK の人気番組「ドキュメント72時間」で放送された。バーでは、余裕がある時にスタッフが絵本の読み聞かせをしてくれる。同番組の中で今本さんが読み聞かせをしているシーンに使われた絵本が、その直後から飛ぶように売れて同店だけで1,000冊以上売れた。「出版社からもとても感謝されました(笑)」と今本さん。

書店コーナーは年中無休でフル回転。週末には親子連れで賑わう。
人気メニューの「焼きハヤシ」
専属のバーテンダーはいない。スタッフは今本さんを筆頭に全員ブックハウスカフェの店員だ。だから凝ったカクテルなどは提供していない。一方、カフェで日中提供している軽食はバーでも食べられる。カフェの人気メニューは「焼きハヤシ」。濃厚なデミグラソースがご飯によく絡んだハヤシライスの上にチーズを乗せてこんがりと焼き上げた一品。
意外とお酒に合うのが「焼きカレーパン」。これは、老舗ベーカリーの特製品。外はサクッと香ばしく、中はもっちりとした食感。揚げずに焼いているため、軽やかで食べやすい。一口かじると、スパイシーなカレーの風味が口いっぱいに広がり、程よい辛さがクセになる。具材のカレーはコクがあり、ゴロっとした具材が食べ応えをプラス。揚げカレーパンとは異なる、ヘルシーで奥深い味わいが楽しめる。
そして、「こんがりハムトースト」。パンは千代田区役所内のさくらベーカリーで特別に焼いてもらっている全粒粉パン。サクッと焼かれたパンの香ばしさに続き、ジューシーなハムの旨味が広がる。そこへウイスキーをひと口。スモーキーな香りとほのかな甘みがチーズのまろやかさを引き立て、余韻が心地よい。ここで今本さんの優しい声で絵本の読み聞かせ。至福のひと時というのは、こういう時をいうのだろう。

カフェの人気メニュー「焼きハヤシ」(1,200円※)。バーでも提供している。

「こんがりハムトースト」(1,000円※)。千代田区役所内のさくらベーカリーで特別に焼いてもらっている全粒粉パンを使用。

「焼きカレーパン」(500円※)。老舗ベーカリーの特製品
※金額は『法人なかま』発行当時のものです。
レポート◎山根和明(広報委員会)
食いしん坊手帖 vol.24
東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F
電話:03-6910-0819
- 営業時間
20:00~23:00(平日のみ)
【書 店】11:00~18:00
【カフェ】11:00~18:00
- 定休日
土曜・日曜・祝日 - 席 数
60席
当ページに掲載している情報は、『法人なかま』発行当時のものです。現在の情報とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

