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vol.23|ちゃんこ料理 一の谷

2025.02.01

ちゃんこ鍋一筋50年
元力士のこだわりの専門店

ご主人が研究を重ねてたどり着いた「ちゃんこ鍋」。鍋料理のメニューはこの逸品のみ。

料理が上手な力士は出世しない?

「現役時代、70人くらいの力士と寝食を共にしていました。だいたい、5組くらいに分かれてちゃんこ番をするんですが、センスがない人が作るとちゃんこ長が、誰だこんなまずいものを作ったのはと怒るんです。自分で言うのもなんですが、私が作る鍋は美味しかったようで、よく褒められました。まあ、だから出世できなかったんでしょうね。相撲界には、料理がうまい力士は出世しないなんて言い伝えがありますから(笑)」と豪快に笑い飛ばすのは、外神田のちゃんこ鍋専門店「一の谷」の主人、木田三成さん。昭和20年生まれの木田さんは、17〜28歳にかけて名門、高砂部屋に所属していた。しこ名は「一の谷」。最高位は幕下5枚目。師匠は大横綱、双葉山と名勝負を繰り広げた元横綱の前田山。当時、高砂部屋には大関前の山、関脇富士桜を筆頭に70人ほどが所属していて、入門数年後には、ハワイマウイ島から同年代の若者がやってきた。外国人力士のさきがけとなった後の高見山である。
「当時でも1、2を争う大所帯だったと思います。部屋は両国駅の近くにありましたが、神田明神下界隈にはまだ花街の名残があって、よく食事に連れてこられました。この辺の雰囲気が気に入っていたので、引退後にすぐこの近くでちゃんこ鍋屋を始めたんです」と主人は語る。戦前、今の秋葉原駅から神田明神下にかけて、花街が形成されていた。開発によりその面影は失われてしまったが、最後まで名残があったのが、明神男坂の下の路地「明神下中通り」沿いといわれている。

  • ご主人が現役時代の部屋の看板(写真左)
  • 左側の壁の中央に飾られているのは古い番付表。アンティークな調度品がノスタルジーな雰囲気を作り出す(写真右)

映画のセットのようなノスタルジー空間

「元々、民家だったのを20年ほど前に改築しました。その際、自分が趣味でずっと集めてきた調度品を、店内に飾りました。喜んでくださるお客さんも多いですよ」と主人が話すとおり、一歩店内に足を踏み入れると、そこは映画のセットのようなノスタルジーな空間が広がっている。レトロ感あふれる木製の調度品、アンティーク和家具などが座敷の至る所にディスプレイされているのである。清水の次郎長が愛用していたという火鉢まで。また、主人が入門していた当時の高砂部屋の看板や、番付表まで飾られている。好角家にはたまらない。
ご子息の十豪さんも元力士で、15歳から約10年間、富士桜が高砂部屋から独立して開いた中村部屋に所属していた。残念ながら、思うような結果を出せずに24歳で引退。以降、父とともに同店を切り盛りしている。店内は年季の入った座卓が5卓に、5人掛けのカウンターがあり、席数は30席といったところ。

鬼瓦を配した民家風の建物。

こちらは民芸館を思わせるお座敷。

木田三成さん(79)と十豪さん(45)。とても気さくな親子だ。

具材の滋味が引き立つさっぱり味

鍋料理は「ちゃんこ鍋」一点のみ。夏場もメインは「ちゃんこ鍋」だという。それで50年以上暖簾を守り続けているのである。具はハクサイ、長ネギ、シイタケ、ニラ、ニンジン、エノキ、コンニャクとツミレ。肉や魚の切り身は入っていない。スープは昆布出汁のあっさりとした醤油ベースの味付けである。
「力士は練習で汗を流すので、相撲部屋のちゃんこ鍋は味付けが濃いです。ここは場所柄、会社勤めの方が多いので、すっきりした味付けにしています。色々なお店に食べて行って自分で勉強しました」とご主人が話してくれたとおり、熱々のスープをフウフウしながら口に含むと、出汁がしっかりと効いたやさしい味が口の中に広がる。さっぱりしているのに滋味があり、癖になる味わいだ。「私が部屋で作っていた頃は、野菜は3種類くらいで、あとはアジかイワシのツミレだけでした。ただ、青魚はどうしても生臭さが出てしまうので、ウチのツミレはマダイを使っているんです」と主人。マダイのツミレにはゴボウと味噌が少し入っている。そして、つなぎには卵を使用している。ふんわりした食感で、ゴボウの風味がマダイの上品な味を引き立ててくれる。このツミレから出たエキスが、鍋全体の隠し味になっているに違いない。とはいえ、具材はほぼ野菜である。物足りないような印象を少なからず抱いてしまったが、食べ始めるとあら不思議。しっかりと味がしみ込んだ野菜とツミレだけで、充分に満たされるのである。シメはごはん、うどん、餅の中から選べるというのもうれしい。
ちなみに、接待利用のお客が多いとのことで、メニューには値段が記されていない。2025年1月現在、ちゃんこ鍋は1人前3,000円※、刺身盛り合わせは1人前4,000円※からになっている。このほか、酢の物、たまご豆腐、山菜料理といった四季折々の料理も用意されている。
以前、NHKの海外向けの番組で高見山特集が組まれた際に、現役時代をよく知る人物として一の谷のご主人とお店が紹介された。いまだにその番組を見たという海外のお客も多いという。特に冬場は予約必須である。

ちゃんこ鍋の具材はハクサイ、長ネギ、シイタケ、ニラ、ニンジン、エノキ、コンニャクとマダイのツミレ。ちゃんこ一筋のご主人が行き着いた組み合わせだ

豊洲市場から旬の刺身も毎日入荷している。刺身盛り合わせは1人前4,000円※〜

※金額は『法人なかま』発行当時のものです。

レポート◎山根和明(広報委員会)

食いしん坊手帖 vol.23

ちゃんこ料理 一の谷

東京都千代田区外神田2丁目13-4
電話:03-3251-8500

  • 営業時間
    17:30〜23:00
  • 定休日
    日曜日・祝日
  • 席 数
    30席

当ページに掲載している情報は、『法人なかま』発行当時のものです。現在の情報とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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