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vol.20|さんほれ

2024.11.01

秋葉原の路地裏に佇む「ふぐ」と「うなぎ」の名店

ふぐ刺身のうす造り。料理は目でも楽しむというが、これほど目の保養になる料理はそうない。

3代にわたり秋葉原でふぐ屋を営む

秋葉原ほど目まぐるしく表情を変える街はない。戦後だけでもラジオ・無線の街から始まり、家電製品、オーディオ・パソコン、ゲームソフト、アニメ、マンガ、フィギュアと、その時代を象徴するポップカルチャーを醸成してきた。唯一無二の街である。今では国内のみならず世界各地から集まった種々雑多な人で賑わい、カオス状態を極めている。ところが、JR 秋葉原駅「昭和通り口」から昭和通りを越えて総武線の高架下を浅草橋方面へ歩くと、混沌から郷愁の街へと雰囲気が一変する。せんべろの町、葛飾区立石を彷彿させるホルモンや焼き鳥の看板を掲げた昭和の居酒屋が軒を連ねているのだ。
「ふぐと和食処 さんほれ」は、この飲み屋街を一本入った静かな路地にある。
「2000年の5月からここで営業しています。その当時、高架下はあんなにお店がなかったんですけどね(笑)。いつの間にかすごく賑やかになりましたね。当時、ホールは妻と妻の母に手伝ってもらっていたのですが、今は妻の妹が来てくれています」と話すのは、店主の安部優さん。安部さんの実家はかつて秋葉原(松永町)で暖簾を掲げていた「ふぐと日本料理開店以来ホールを仕切っている奥さんとは練成中学(現神田一橋中学)の同級生。実家の「ふぐと日本料理 三友」は昭和9年に祖父が始め、100人収容できる大型店だった。祖父は東京都がふぐ調理師免許制度を開始した年に受講して、ふぐ調理師免許を9番目に取得した。安部家は3代にわたり秋葉原でふぐ屋を営んできたのである。

賑やかな高架下から一本入った路地に建つ。

落ち着いた雰囲気の店内。料理の味をじっくりと楽しめる。

先人たちを魅了した魔味

席数は全28席。テーブル席が2卓、7人掛けのカウンター、奥の小上がりは掘り炬燵式になっていて、テーブルが2卓。こぢんまりとした清潔感ある店内である。賑々しい居酒屋と違い、取引先の接待でも安心だ。毎朝、豊洲市場に仕入れに行っているとのことで、この日も千葉県産のアジ、玄界灘の白イカ(ケンサキイカ)、気仙沼のカツオ、青森の蒸しアワビ、長崎の地ダコ、鹿児島のカンパチなど各地の旬の美味がラインナップしていた。しかし、人気の料理はコースであり、トラフグコース(8,800円※)、うなぎコース(8,800円※)、季節コース(6,600円※)、天然トラフグコース(18,000円〜要予約※)の4種類がある(料金は取材時のもので変動する場合もあります)。特に秋から冬にかけてはトラフグコースがよく出る。内容はお通し、ふぐ刺身、ふぐ唐揚げ、ふぐちり、雑炊である。
ちなみに、ふぐ刺身はテッサとも呼ばれる。諸説あるが、調理法が確立されていなかった江戸時代、毒に当たって亡くなる方が少なくなかったため、「当たると死ぬ魚」ということでふぐを隠語で鉄砲と呼ぶようになり、その刺身だからテッサとなった。一方、ふぐ鍋は鉄砲のちり鍋だからテッチリ。今でも関西ではテッサ、テッチリが主流である。元々、ふぐ食に関しては豊臣秀吉が安土桃山時代に「河豚食禁止令」を出し、明治時代まで表向きはそれが踏襲されたといわれる。しかし、明治20年に初代総理大臣の伊藤博文が下関でふぐを賞味したところその美味さに驚き翌年、山口県でふぐ料理解禁令が発令された。そして昭和26年に東京都が全国に先駆けてふぐ調理師試験を実施し、免許制度を確立。これ以降、ふぐ毒で亡くなる方は皆無に等しくなった。「河豚は食いたし命は惜しし」という言葉は今は昔だが、命を賭してまで食べたくなる魔力が、ふぐには秘められているということだろう。

ふぐの産地、大分県佐伯市の「ぶんご銘醸株式会社」製のオリジナル麦焼酎。

日体大デモンストレーションスキー部出身で以前はスキーの指導者をしていたというご主人。24歳で実家の三友で修行をし、33歳で独立。

ふぐと並びうなぎが人気の理由

ふぐ刺身といえば薄造りである。ふぐの身は筋肉質なのでマグロやブリのような平造りでは硬くて噛み切れないのである。だから一枚、一枚丁寧に薄く切るのだが、薄ければ薄いほど調理の難易度は高くなる。しかも、薄造りの場合、一切れの見た目は貧相なので、盛り付けが重要になる。包丁の技術と美的センスを問われるのが、ふぐの薄造りなのである。
というわけで、早速ふぐ刺身をいただく。飾り絵が映える藍色の皿の上に、整然と並べられた絹のような白い切り身。皿の模様が透けて見える。中央部には菊の花と浅葱。手前には湯引き皮。ふぐ好きでなくても、食指が動いてしまう。中央部に盛られた切り身を2枚箸でつまんで、浅葱を包みポン酢に付ける。噛む。薄いのにシャキシャキした歯応え。浅葱とポン酢の香りが絶妙なアクセントになり、たんぱくで繊細なふぐの旨味を引き出している。どの魚もそうだが、特に白身魚は締めてすぐよりも寝かせたほうが旨味がしっかりと出る。しかし、寝かせすぎると身が柔らかくなり歯応えが失われる。歯応えと旨味は相反するものだが、さんほれのふぐ刺身は歯応えがあり旨味がある。この日のふぐは長崎産とのことだったが、産地や大きさ、季節などを考慮し、熟成の時間を決めているのだろう。次回はコース料理を賞味せねばなるまい。
ふぐ料理と並び人気になっているのがうなぎである。使用するうなぎは主に浜名湖、三河、宮崎、鹿児島と国産にこだわっている。毎朝、生きたうなぎを仕入れて白焼にしている。トラフグと異なり、うなぎはまだ完全養殖が確立されていない。近年は稚魚の水揚げが減ったので、少ない稚魚を大きく育てて出荷する養殖業者が増えている。具体的には1kgあたり3、4尾。このサイズはよくいえば脂がたっぷり乗っていて食べ応えがある。悪くいえば、脂がしつこく骨が硬い。さんほれは昔から主流だった180g 前後を今でも使い続けている。1kg あたり5〜6尾のサイズが、脂の乗り、身の厚さ、骨のバランスがちょうどいいのである。
人気のうな重(4,500円※)をいただく。メニューに松竹梅はなく、うな重一択。1尾分が乗っていて肝吸いまで付いているのでランクでいうと「松」だろう。タレがしっかりと絡んだうなぎは外はパリっとしつつも、中はふっくらしていてジューシー。程よい脂に辛口のタレがよく馴染んでいる。これぞ江戸前のうな重といった感じである。実家から譲り受けたタレに継ぎ足し継ぎ足ししてきた秘伝のタレだと言うので合点がいった。

うな重は「味のドーナツ化現象」が起きていると言われる。都心から離れるほど甘くなるというのだ。つまり元来、江戸前のうな重は辛口という。実家から譲り受けたタレを継ぎ足しで使用しており、これぞ江戸前のうな重というべき風味を味わえる。

広報委員の奥山氏が絶賛していただし巻き卵。砂糖を入れていないので、酒の肴にうってつけ。

※金額は『法人なかま』発行当時のものです。

レポート◎山根和明(広報委員会)

食いしん坊手帖 vol.20

さんほれ

東京都千代田区神田佐久間町 3-37-1
山茂登ビル 1F
電話::03-3863-8023

  • 営業時間
    【月~土】
    17:00 〜 22:00(L.O.21:00)
  • 定休日
    日曜日・祝日

当ページに掲載している情報は、『法人なかま』発行当時のものです。現在の情報とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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