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vol.19|みますや

2024.10.01

1905年創業都内最古の居酒屋

まるで映画のセットのような懐かしい雰囲気を醸し出す外観。

東京大空襲からバケツリレーで難を逃れた

みますやの創業は1905年(明治38年)。日露戦争で日本が勝利した年である。居酒屋としては神田はもとより東京でも最古の部類に入る。現在の建物は関東大震災の後に建てられたもので、東京大空襲の火災から難を逃れた貴重な建造物である。戦時下、常連だった近所の職人や商人たちが、「みますやを燃やすわけにはいかない」とバケツリレーをして焼失を防いだという逸話がある。現在の店主は3代目の岡田勝孝さん。8年前から3代目に代わって帳場で店を切り盛りしているのが次女のかおりさんだ。
「兄と姉も店で働いています。私は高校生の頃からアルバイトで働いていました。外で働くなら、ウチを手伝えと言われて(笑)。学校を卒業してからは海外にも行ったりしましたが、やはりこのお店を私たちが継いでいかないとと思うようになりました」と、かおりさん。
コロナ前は「おじさんの聖地」などと言われたほど、多くのサラリーマンから支持されていたが、コロナ後は若者も増えたという。SNSなどを通じて、東京だけでなく全国からお客が訪れるようになったそうだ。

店内も昭和の居酒屋そのものの雰囲気。

8年前から帳場に立っている岡田かおりさん。

こだわりは「安くて早い」

暖簾をくぐると、もはやそこは昭和である。煤けた梁が走り、古びた壁にはご主人直筆の短冊メニューが並んでいる。看板料理はいくつかあるが、かおりさんの口から真っ先に出てきたのがドジョウである。丸煮と柳川鍋の2種があり、同じくらい人気がある。柳川鍋は開いたドジョウを割り下で煮込み、ささがきにしたゴボウとともに卵とじにした料理。それに対して丸煮は、生きたドジョウを酒の中に入れて酔わせてから、酒、醤油、みりんとともに煮込んだもの。
「ドジョウ料理は基本的に生きているドジョウを使います。だから毎朝、豊洲市場に買いに行くんです。鮮度がとても重要なんです」とかおりさん。注文を入れて一息ついていると、「どぜうの丸煮」がやってきた。早い。早すぎるくらいだ。
「早くて安いというのがウチの代々のこだわりなんです」とかおりさんは目を細める。昨今の物価高の影響を受けて同店も値上げに踏み切ったというが、それでも750円(以前は700円)※である。飴色のおつゆの中に、生きている時と同じ姿のドジョウが、静かに折り重なっている。20尾近くいるように見える。まずは小ぶりなものを箸でつまんでつるりと口に入れる。すると、やわらかい身がほぐれ、ほんのりとした苦味と甘みが鼻腔をくすぐる。素朴だが、奥が深い味わいだ。骨まで柔らかく煮込まれていて、頭から尾まで丸ごと食べられる。
「魚の骨はカルシムがたっぷりだからたくさん食べると丈夫になるぞ」というのが口癖だった父のことをふと思い出した。素朴であり、郷愁の味なのだった。

名物料理「どぜうの丸煮」。素朴で奥深い味わいを楽しませてくれる。

日本酒のラインナップも豊富。取材時は19種の日本酒が用意されていた。

開店と同時にやってくるお客

席数は全部で130。これがほぼ連日満席になる。開店は17時。待ちきれずに並ぶ御仁も少なくない。SNSの影響で全国からお客が来るようになったと先述したが、海外からのお客も増えている。が、外国人の場合、予約しないで来店するケースが大半で、ほとんど満席で入店できないのだそう。
続いて、牛煮込みをいただく。「牛肉を少しでも安く、美味しく皆さんに食べてほしい」と2代目が始め、今日に受け継がれてきた看板料理だ。じっくり煮込まれた肉は柔らかく、醤油ベースの甘めの汁が肉の旨みを引き立てている。玉ねぎの甘さが全体に溶け込み、コクと深みのある味わいを醸し出している。酒が欲しくなる。
「煮汁は継ぎ足し、継ぎ足ししています。肉豆腐か牛煮込みか、ほとんどの方がどちらかを頼まれます」。
馬肉も創業当初から扱っているという。馬肉といえば、熊本が有名だ。諸説あるが、肥後熊本藩初代藩主の加藤清正が、朝鮮出兵で食糧難に陥った際に、乗ってきた馬の肉を食べたのが始まりといわれている。一方、東京では文明開花で食肉が広まり、牛鍋がブームになった。牛よりも馬の方が精力がつくと職人たちに馬肉が好まれるようになり、遊郭があった吉原周辺には20軒以上の馬肉料理屋が並んでいたそうだ。
開店時刻の30分前に取材をさせていただいたが、17時になると続々とお客が入店してきて、静かだった店内に一気に活気が充満した。客の大半は仕事帰りの中高年。みんな思い思いの料理を口に運び、酒を飲む。次第に話に熱がこもる。きっと、この瞬間を楽しみにして、今日も仕事に精を出してきたのだろう。戦時下に「この店だけは燃やすわけにいかない」と常連たちがバケツリレーしたという逸話が、蘇ってくるようだった。

こちらも看板料理の牛煮込み(600円※)。継ぎ足し、継ぎ足しの煮汁がよく染み込んでいる。

こちらは馬刺しの赤身(1,800円※)。このほか、霜降りもある。馬肉はコース料理もある。

※金額は『法人なかま』発行当時のものです。

レポート◎山根和明(広報委員会)

食いしん坊手帖 vol.19

みますや

東京都千代田区神田司町 2-15-2
電話:03-3294-5433

  • 営業時間
    【月~土】
    11:30~13:30(ランチは月~金のみ)
    17:00~
  • 座席数
    13 席(カウンター7席、テーブル6席)
  • 定休日
    日曜日・祝日

当ページに掲載している情報は、『法人なかま』発行当時のものです。現在の情報とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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