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vol.03|ビヤホール・洋食 ランチョン

2023.06.01

明治42年創業。
そのビールを注ぐのは代々、店主だけ。

真剣な面持ちで生ビールを注ぐ4代目店主の鈴木寛さん。

本の街で100年以上愛され続けている名店

古書店が軒を連ねる世界最大級の本の街、神田神保町。明治10年に東京大学が現在の学士会館の場所に開校したのを皮切りに、法政大学、中央大学、明治大学、専修大学などが神保町界隈に次々と建てられていった。文明開化後の日本において神保町は随一の学生街となり、書店や取次店や出版社が集まった。
そんな由緒ある本の街で、100年以上にわたり愛されてきた名店が「ビヤホール・洋食ランチョン」である。創業は明治42年(1909年)。西洋料理店として現在の駿河台下近くにオープンした。当時、まだ珍しかった生ビールを出す洋食屋は、時代の変化に敏感な編集者や若者の注目の的だったに違いない。ちなみに、我が国初のビヤホールは、サッポロビールの前身である日本麦酒株式会社が明治32年に銀座にオープンした「恵比寿ビヤホール」である。ランチョンはアサヒビールの前身、大日本麦酒株式会社の生ビールを創業当初から提供している。

赤レンガ壁がトレードマーク。

クラシカルな雰囲気が漂うホール。ガラス窓からは古書店街が一望できる。

生ビールのポテンシャルを引き出す3つの作法

靖国通りと白山通りが交わる神保町交差点から100mほど東に向かった左手の赤レンガ壁のビルが目印だ。吹き抜けになっている螺旋階段を上り2階にいくと、レトロな雰囲気が漂うホールが現われる。ガラス張りの窓からは古書店街を一望できる。全110席。夏季はウイークデーでも連日のように満席になるという。
ランチョンといえば、何はさておき生ビールである。特別なクラフトビールや地ビールではなく、アサヒの業務用の樽詰生ビール(マルエフ)なのだが、ハッとするほど飲み心地がいいのである。
「ビールで最も大事なのは注ぎ方なんです」
と話すのは4代目の鈴木寛さん。ランチョンではビールを注ぐのは代々、店主のみ。営業時間は11時30分から21時30分。ランチビールを飲む客も少なくなく、昼夜通しの営業で客が途切れることはない。その間、店主はひたすらビールを注ぐ。
寛さんによると、生ビールのポテンシャルを最大限に引き出すには、3つのポイントがあるという。まずひとつは、グラス。ジョッキではなく、特注のグラスを使用する。そして、グラスとディスペンサーをしっかりと洗浄する。料理を載せた食器とグラスを一緒に洗うことは絶対にしない。なぜなら、料理の脂がグラス内部に付着してしまうから。そうすると、注いだ際に泡が立ちづらくなる。また、ビールを注ぐ直前にグラス内部に水の膜を張る。これにより酸味を軽減させられるという。
次に大事なのが、注ぐ際にしっかりと泡を立てるということ。空気に直接触れると、ビールは酸化(劣化)してしまう。それを防ぐのが泡なのである。脂を排除し水の膜を張った特注のグラスにビールを注ぐことで、きめ細かい泡ができるのである。
そして3つめ。ビールは冷やし過ぎてはいけないという。キンキンに冷やしてしまうと、ビール本来の味が分からずに美味しさが半減してしまうのだと。だから、ランチョンでは気温や天候によってビールの温度を日々変えているのだ。

魔法の泡。このきめ細かい泡がビールの味の劣化を防いでくれる。

トマトドレッシングも自家製。お客様からの要望で、1本500円で販売もしている。

洋食屋なのにコーヒーがない理由

オムライス、スパゲッティナポリタン、ビーフシチュー、エビフライなど、「洋食の王道」ともいうべき料理がメニューに並ぶ。コンセプトは下町の洋食屋。洋食とは、幕末に西洋から伝わり、日本風にアレンジした料理である。料理人たちが何世代にも渡り、日本人の舌に合うようにアレンジを重ねてきたこの味を、ランチョンでは大事にしている。作り置きはしない。注文が入ってから作るので時間はかかるが、出来立てを味わえる。
「うちは、手づくりを信条としています。メンチカツやビーフシチューはもちろん、ロースハムや塩タン、ドレッシングも自家製です。ソーセージも以前は自家製のものもありましたが、今はなかなかそこまで手が回らなくて」
と寛さん。
もちろん、食事だけの利用もオーケー。ただし、食後のコーヒーは取り扱いがない。コーヒーを淹れると、ビールの香りが損なわれるからという。ビジネス的には利益率の高いコーヒーはプラスになるに違いないが、創業以来100年以上にわたりグラスに注いできた生ビール伝道師としての矜持が、それを許さないのだろう。ビール党ならずとも、その心意気に「乾杯!」とエールを送りたくなる珠玉の一杯だ。

人気のオムライス。表面はシワがまったくない。中は半熟状態。

自家製メンチカツ。ナイフを入れると肉汁があふれ出る。

レポート◎山根和明(広報委員会)

食いしん坊手帖 vol.03

ビヤホール・洋食 ランチョン

千代田区神田神保町1-6
電話:03-3233-0866

  • 営業時間
    月~金|11:30~21:30
    土|11:30~20:30
  • 定休日
    日曜、祭日
  • 席数
    全110席

当ページに掲載している情報は、『法人なかま』発行当時のものです。現在の情報とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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