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vol.05|なかや蒲焼店

2023.08.01

良心的な兄弟が切り盛り
神保町でウナギ一筋77年の専門店

身からあふれ出る脂が秘伝のタレと絡み合い、濃厚な滋味を創り出す。写真はうな重(特上)

夏場にウナギが食べたくなる理由

夏場の土用丑の日にウナギを食べる習慣がどのように始まったかは諸説あるが、江戸時代に蘭学者の平賀源内が作ったキャッチコピーがバズったという説が有力だ。本来、ウナギが最も美味しいのは秋である。川の天然ウナギは水温が下がる冬場に備え、秋にエサを飽食して、体内に脂を蓄える。一方、夏場は脂が乗る前の状態。どうしたら、夏場でもウナギを売れるかという相談をあるウナギ屋が平賀先生にしたところ、「土用丑の日鰻の日」、「夏バテ防止に鰻を食べよう」などというキャッチコピーを書いてもらった。これにより夏土用丑の日に飛ぶように売れて、全国に波及したという話である。
もっとも、万葉集に「石麻呂にわれ物申す夏痩せによしといふものぞ鰻捕り食せ」という大伴家持の歌があるように、豊かな滋養がウナギにあることは昔から知られていたようだ。実際、あの細長い川魚には体調を維持するために必要なビタミンA、ビタミンB1、B2、ビタミンD、ビタミンEや、いわゆる善玉コレステロールを増やしてくれるDHA、EPAなどが多く含まれている。東京のうだるような暑さで食欲が減る一方、なぜだかウナギを食べたくなるのは、自然の摂理なのかもしれない。

店舗入り口にて。向かって左が兄の高木康行さん、右が弟の祐実さん

見るからにふんわり焼きあがったウナギ。ほろほろと舌の上でとろけてしまう

終戦直後に祖父がリヤカーでウナギの引き売り

神保町の交差点から白山通りを水道橋に向かって100mほど行った右側に、「神保町なかや」という看板を掲げたウナギ専門店がある。終戦直後に、創業者の故・高木実氏がリヤカーにウナギを乗せて神田駅〜すずらん通りにかけて引き売りをしていたのが始まり。そして昭和21年、念願の店舗を古書店が建ち並ぶすずらん通りに構えた。当時、米は配給制だったため、メニューは蒲焼のみ。そのため、店名も「なかや蒲焼店」になった。というのは表向きで、実際は店裏で闇米を用いて常連さんにうな丼を提供していたそう。
昭和33年に浅草橋に姉妹店を出し、平成14年にすずらん通りから靖国通りをまたいださくら通りに移転。そして2021年12月に、現在の場所に移転。移転後は創業者の孫である高木康行、祐実兄弟が店舗を切り盛りしている。
「物心着いた頃から、祖父にお前は店を継ぐんだと言われて育ちましたので、調理師専門学校を卒業して迷うことなく20歳で働き始めました」と語るのは兄の康行さん。一方、弟の祐実さんは元々専門店で和食を学び、20年前にさくら通りに移転したタイミングで入店した。「当時は六本木の先輩の店を手伝っていましたが、父から刺身とかもやりたいと聞かされていたし、ちょうど子供が生まれたのでいい機会だと思いまして」と語る。基本的にウナギを焼くのは兄、それ以外の料理は弟が担当する。

養殖ウナギの場合、夏場でも脂が抜けるということはない。1尾1尾の個性を見極めて、しっかりと焼き上げる

清潔感あふれる店内。テーブルは9卓。全25席。12名から貸し切りも可能

ウナギには1尾1尾個性がある

神田界隈の老舗うなぎ店にしては、料金は良心的である。うな重(並)は2,900円、(上)は3,700円、(特上)は4,700円。目安として(並)はウナギ半身、(上)は4分の3。(特上)は1尾。その上に(大名)なるメニューもあるが、これは(上)がご飯の上だけでなく中にも入っているという豪勢なうな重。兄弟がおすすめという(特上)をいただくことに。重箱の蓋を外すと、箱からはみ出さんばかりに肉厚のウナギが鎮座していて、ご飯がほとんど見えない。(特上)と呼ぶにふさわしい眺めだ。豊満な身からあふれ出た脂が艶めかしい光沢をたたえている腹側からかぶりつく。噛まないうちから、舌の上で身がとろけるようだ。創業時から継ぎ足しで使っているという秘伝のタレとウナギの脂が精妙に絡み合い、濃厚な滋味を創り出している。
ウナギは大きいほど、脂が乗る。しかし、脂が乗り過ぎていると「しつこい」と感じるから人間は厄介だ。といって、脂が少ない小型だと物足りない。この日いただいたのは身の大きさからして300g級の大型サイズと思われる。しかし、大型にありがちなしつこさはない。どういうわけか。
「ウナギには1尾、1尾個性があります。焼いていると、それが分かってきます。なので、脂がしつこいと思われたウナギは、じっくりと焼いて脂を落としてやるんです。身の柔らかさ、タレの染み方、色の付き方など、1尾1尾違うんですよね」とウナギを焼いて25年の康行さん。
なかやでは、国産の養殖ウナギを川魚問屋から毎朝仕入れている。ご存じのように、シラスウナギの不漁が毎年のように報じられている。この影響で仕入れ価格も上昇しているが、もうひとつ大きな変化が。元々、東京では1kgあたり6尾、つまり150g前後のサイズが主流だった。しかし、少ない稚魚を大きく育てて出荷しようという傾向が近年は強くなり、1kgあたり3〜4尾をなかやでは仕入れることが多くなった。そのサイズになると骨が当たりやすくなる。そのため、康行さんはウナギを蒸した際に、大きな骨はできるだけ取っている。
夜のメニューも充実している。定番の「うざく」や「肝焼き」のほか、茹でた肝をわさび醤油で合えた「きもわさ」なる逸品も。鰻串は肝のほかにひれ(背ビレ)やかしら(頭)、ばら身(あばら骨周辺)など、左党には聞き捨てならない一品が並ぶ。日本酒は北アルプスの天然水を仕込み水にした松本市の蔵元「大信州」推し。また、日本酒を生酒(ドラフト)の状態で長期間提供できるKEG DRAFTというサーバーを導入しており、神田にいながら大信州の生酒をいただけるのもうれしい。

※金額は『法人なかま』発行当時のものです。

茹でた肝にわさび醤油を合えた「きもわさ」。夜のメニューも充実している

これが日本酒のドラフトサーバー KEG DRAFT。大信州のKEG DRAFTを導入しているのは都内でも大変珍しいという

レポート◎山根和明(広報委員会)

食いしん坊手帖 vol.05

なかや蒲焼店

東京都千代田区神田神保町1-32 出版クラブビル1F
電話:03-3518-9095

  • 営業時間
    【月〜金】
    ・昼の部
    11:30〜13:30(LO)
    ・夜の部
    17:00〜20:00(LO)
    【土】
    11:30〜13:30(LO)
  • 定休日
    日・祝・土曜夜
  • 席数
    全25席
    ※12名より貸し切り可

当ページに掲載している情報は、『法人なかま』発行当時のものです。現在の情報とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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