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vol.44|焼鳥 みどり

2026.11.01

7年かけてたどり着いた1本の串。
神保町の路地に灯す炭火

紀州備長炭の炭火の上で、串を返しながら焼き上げていく。

少し変わっている「ねぎま」

神保町交差点から白山通りを水道橋方面へ少し進むと、右手の路地から焼き鳥の香りが流れてくる。「焼鳥みどり」。焼き手の仕事を間近に眺められるカウンター11席と、4人掛けのテーブル1卓だけの、こぢんまりとした店だ。開業して2年あまり。
店主の緑川友也さんは、串を焼く前に手羽先の皮目へ霧吹きで軽く水を打つ。
「その方が、皮に塩がなじみやすいんです」。
丸鳥で仕入れた3種の鶏を自らさばき、紀州備長炭で焼き上げていくのが、緑川さんの仕事である。
この店の「ねぎま」は少し変わっている。1本の串の上半分にはホロホロチョウ、下半分には東京しゃもが刺してある。先にホロホロチョウを口に運ぶと、しっとりとして肉の味が濃い。続いて東京しゃもを噛むと、脂は少ないが、引き締まった身から滋味がじわりと出てくる。同じ火、同じ塩で焼かれているからこそ、二つの鶏の違いがよく分かる。
この取り合わせには、緑川さんが歩んできた7年間が表れている。
緑川さんは千葉県市川市の出身。今年42歳になる。焼き鳥の世界に入ったのは32歳のときだった。
「飲食店を転々としていて、自分の店を持ちたくなったんです。焼き鳥なら1年ぐらいで店を出せるのかなと軽く考えていました。簡単そうに見えたんです」。
緑川さんは苦笑する。だが、実際に足を踏み入れると、焼き鳥はそれほど単純な世界ではなかった。
最初の修業先は、人形町の老舗鶏料理店「玉ひで」の姉妹店「江戸路」。ここで3年半学んだ。「玉ひで」は昭和59年に誕生した東京しゃもの開発にも深く関わった店であり、緑川さんが独立を伝えた際にも、「東京しゃもを使っていいよ」と声をかけてもらった。
続いて、大塚の焼き鳥店「蒼天」で3年半。「蒼天」は焼き鳥にホロホロチョウを取り入れた草分け的な店の一つで、独立後も同じ生産者から仕入れられるよう、店を通じて紹介してもらったという。
「江戸路」で出会った東京しゃもと、「蒼天」で学んだホロホロチョウ。二つの修業先を代表する鶏が、「みどり」のねぎまでは1本の串に収まっている。

備長炭の炉を前に手を動かす店主の緑川友也さん。

3種の鶏を、丸鳥から

「みどり」で使うのは、ホロホロチョウ、東京しゃも、丹波黒どりの3種。いずれも部位ごとの切り身ではなく、丸鳥の状態で仕入れ、緑川さんが店内で1羽ずつさばく。
「全部丸鳥で入れているので、それぞれ使い方が違います」。
ホロホロチョウは、アフリカ原産の鳥だ。寒さに弱く神経質だが、岩手県花巻市の農場では温泉の熱を利用して床を暖め、飼育の難しいこの鳥を育てている。身は赤みを帯び、歯応えがありながら臭みは少ない。取材の日には、燻製にした手羽先を焼いていた。力強い肉質に燻製の香りが重なり、酒を誘う。
取材の日のレバーは丹波黒どり。噛むというより、口の中でほどけるような柔らかさだ。串の7、8割はフランス・ゲランド産の塩で焼くが、タレを使うのは5本のうち1、2本ほど。そのタレも「蒼天」から一升瓶2本分を分けてもらい、味が変わらないよう、毎日少しずつ継ぎ足している。
料理はアラカルトではなく、すべてコースで提供する。軽めのショートコースは、先付け、焼き鳥、鶏のスープという構成で、仕事帰りに訪れる近隣の客からの注文が多い。食べ終えたあとに「レバーをもう1本」という感じで、お好みで追加することもできる。もう一方のおまかせコースには、串のほかに季節の料理や茶碗蒸し、食事などが加わる。取材の日の先付けは、小ぶりな里芋「石川早生」の絹かつぎ、梨とギリシャのタラガニチーズ、そして幸手鴨の団子とセリのお椀という3点盛り。お椀は本来11月ごろから出す予定の一品だが、この日は先取りで用意してくれた。続く一品料理には、ホロホロチョウのむね肉の冷製が供された。下には焼きナスと青唐辛子のピュレ、上には出汁のジュレを重ね、とんぶりを添える。青唐辛子の辛味と冷たい出汁が、淡泊なむね肉の味を引き締める。

串5本の盛り合わせ。すだちを添えて供される。

先付けの3点盛り。絹かつぎ、梨とタラガニチーズに加え、11月ごろから出す予定の幸手鴨の団子とセリのお椀を、この日は先取りで供してくれた。

ホロホロチョウのむね肉の冷製。出汁のジュレの下に青唐辛子のピュレを忍ばせ、花穂とすだちを添える。

10年通った神保町で

緑川さんは、店を開く前から10年ほど神保町に通っていた。行きつけの理髪店がこの街にあった。
独立を決めてから、物件を探すこと半年。神保町周辺だけでなく、港区や渋谷区まで範囲を広げた。日本橋にあった自宅から自転車で物件を見て回るなか、以前から空いていたこの場所に出会った。
当初は、煙や匂いの出る焼き鳥店の営業が認められていなかった。ところが、物件を探していた時期にビルのオーナーが替わり、焼き鳥店として使えることになった。しかも、屋上まで通じる排気設備がすでに備わっていた。長年通った街で、いくつもの条件が偶然重なった。
店を開いてからは、前号で紹介した青森割烹「あずましく」の店主、齊藤信弘さんとも親しくなった。1年早く店を構えた先輩として、神保町の人の流れなどを教えてもらっている。
現在、緑川さんは店のすぐ近くに住む。朝8時半ごろに店へ来て、仕込みと掃除を始める。営業は午後11時まで。片付けを終えて店を出るのは深夜零時ごろだ。油の多い焼き場の掃除は、今も自分で行う。
「納得いくまできれいにしないと、気が済まないんです」。
1年で覚えられると思った焼き鳥に、7年以上を費やした。「江戸路」で学んだ東京しゃもと、「蒼天」で学んだホロホロチョウ。その二つを1本に刺したねぎまは、緑川さんが過ごした7年間そのものだ。神保町の路地に炭火を灯して2年あまり。「みどり」の味は、ここからさらに深まっていく。

焼き手の仕事を間近に眺められる、木の温もりを感じるカウンター。

店の前に立つ店主の緑川友也さん。

レポート◎山根和明(広報委員会)

食いしん坊手帖 vol.44

焼鳥みどり

東京都千代田区神田神保町1-42-15
エスペランサ神田神保町Ⅱ 1F
電話:03-5801-6778

  • 営業時間
    17:30〜23:00(L.O.22:30)
  • 定休日
    土曜・日曜(第4土曜は営業)
  • 席数
    15席(カウンター11席、テーブル4席)

当ページに掲載している情報は、『法人なかま』発行当時のものです。現在の情報とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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