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vol.17|神田明神下みやび本店

2024.06.01

素材の旨味を引き出す天ぷら会席料理

太白100%のごま油でからりと揚げられた天ぷら。白ワインがよく合う

御台所町の仕出し弁当店

神田明神は高台に位置している。標高約20m。見晴らしがよかったため、風光明媚な場所として江戸時代の錦絵にしばしば描かれた。急斜面になっている東側には当時から石段が造られていて、現在は「明神男坂」という名称で親しまれている。石段を降りて最初に交差する道が「明神下中通り」である。今でこそひっそりとした路地になっているが、明治から戦前にかけてこの界隈には花街が形成され賑わっていた。さらに時代をさかのぼると、1657年の明暦の大火後に江戸城の料理を作るための屋敷『御台所御賄方』が神田明神下に再建され、神田明神下御台所町という地名になった。銭形平次が住んでいたのは、まさにこの御台所町の長屋という設定である。
御台所町という旧名にあやかって『神田明神下みやび』がこの地で創業したのは昭和53年。現在は天ぷら会席料理を看板に掲げているが、当初は仕出し弁当店だった。今のスタイルになったのは2006年からで、弁当部門は墨田区の両国に移転し、『神田明神下みやび』という名で営業中である。

御台所町という旧名を思い出させてくれる外観。

支配人の杉村幸益さん。美味しいお酒、食材を求めて国内外を旅している。

入口にはワインセラーとワイングラスのキャビネットが。

神田明神の東側にある明神男坂。

天ぷらは揚げものではなく蒸し料理

格子戸を開けて店内に入ると、白木の立派なカウンターが目に飛び込んでくる。カウンターは12人掛け。その他、8人掛けテーブルと、6席の小上がりがある。意外なのは、入り口近くの壁際に置かれているワインセラーとワイングラス専用キャビネット。天ぷらにワイン?
「意外に思われるお客様もけっこうおられるのですが、これが合うんですよ」と話すのは支配人の杉村幸益さん。
「たとえば西洋料理の揚げ物といえばフリッターが有名です。衣の作り方は天ぷらに似ていますが、フリッターはメレンゲ(卵白を混ぜて泡のようにしたもの)を使います。これは素材と一緒に衣も味わうためですが、天ぷらで重要なのは、素材なんです。衣は素材を包むためのもので、ある意味で蒸し料理といってもいいと思います」と支配人。
日本で似た料理として唐揚げがあるが、これは素材に小麦粉と下味を直接付けてから揚げる。一方、天ぷらの場合は小麦粉(薄力粉)、卵、冷水を混ぜた衣に素材をさっとくぐらせて揚げる。あくまでも素材の味を楽しむということで、専門店ではつゆではなく塩を出すところも多い。
杉村さんは大学卒業後、スペインに渡りワイナリーやレストランを巡り、そこでワインに魅了され、帰国後は銀座や表参道の高級フレンチやイタリアンでソムリエ業務を10数年経験。同店の支配人を任されたのは2011年で、当時は天ぷらにワインが寄り添っていなかった。
「正直、自分も天ぷらにワインが合うなんて考えてなかったのですが、天ぷらを揚げものではなく蒸し料理と捉えると、合うワインがどんどん見つかるんですよね」と杉村さん。
取り扱うワインは天ぷらや他の料理に合わせて、お客の好みにも応じられるようチョイスしている。そして年に数回は海外からワインの生産者をお店に呼んで、クローズドのイベントを実施している。ワイン好きのお客にアナウンスすると、すぐに定員がいっぱいになるほど盛況だという。

白木のカウンターが落ち着いた雰囲気を醸し出している店内。

食材と油のこだわり

コロナ前と後で営業スタイルが変わった。人気だったランチは完全予約制になり、メニューもランチコースのみ。夜の部もアラカルトはなくなりコース料理のみ。ディナーコースは基本的に9品。価格帯によって、コースに含まれる料理が変わる。日本酒や焼酎の品揃えも豊富だ。食材にもこだわっている。江戸前の天ぷらというと東京湾で採れたものをイメージしがちだが、東京湾にかぎらず、その時に旨いものを全国から仕入れている。直接取引している生産者が全国に20軒ほどある。米どころとして知られる福島県白河に直営の田んぼがあり、そこで収穫されたミルキークイーンを本店や弁当に使っている。
「特にお弁当はお米が大事なんです。冷めても美味しいお米を研究して、この銘柄にたどり着きました。お客さんからも好評で、欲しいという方のために販売も始めました」と支配人。
コース料理で人気のウナギは浜名湖産。天ぷらに付ける藻塩は対馬産。カブは栃木県那須塩原。トウモロコシは香川県産…。そしてもう一つこだわっているのが、天ぷらを揚げる油である。家庭ではコスパの面からサラダ油がよく使われるが、専門店では香りや酸化のしづらさからごま油を使う店が多い。ごま油には大きく2種類がある。ひとつは一般的な焙煎ごま油。油分の多い白ごまを焙煎して絞ったもので、茶褐色の色合いと香りが特徴。もうひとつは太白ごま油と呼ばれる白ごまを焙煎せずに生のまま絞ったもの。色味がなく、ごま油特有の香りもないが、とても軽やかに揚げることができる。
「太白を使っている高級店は少なくありませんが、単価が高いためにサラダ油で割って使っているところもあると耳にします。うちの場合は、初代の料理長の強いこだわりで、当時からずっと100%太白を使っています。だから素材の風味も最大限に引き出せますし、たくさん食べても油で胃もたれしないねとよくお客さんから言われます」。
支配人の話を聞きながら、海老天に藻塩をまぶしていただく。海老は天草の巻海老(車海老の小型)だ。薄い衣にプリプリの食感の海老が包まれていて、噛むと海老の香ばしさと甘い汁がじんわりと出てくる。そのエキスが衣にまぶした藻塩と絡み合って、旨味の余韻を楽しませてくれる。続いて琵琶湖の稚鮎。背ビレが立ち、胸ビレが広がっているのは、生きた状態で揚げられた証である。
「そうなんです、夏季限定ではありますが、鮎は水槽に活かしておき、宴会の際などは桶に入れてお客様に披露することもあります」と支配人。
鮮度がいいからか、羽衣に包まれて高温で揚げられた鮎のはらわたは、ほろ苦いというよりウニのような濃厚な甘さを醸し出していた。天ぷらは素材の味を楽しむ蒸し料理とは、よく言ったものである。

コース料理のおしのぎ料理として夏季は北海道産ムラサキウニの寿司がある。鮮度抜群のムラサキウニの上に日立牛の冷しゃぶといくらが載っている。

レポート◎山根和明(広報委員会)

食いしん坊手帖 vol.17

神田明神下みやび本店

東京都千代田区外神田 2-8-9
電話:03-3251-0155

  • 営業時間
    【月~金】
    ランチ(完全予約制) 11:30~14:00
    ディナー(完全予約制) 17:00~22:00
  • 座席数
    52席(カウンター12席、テーブル8席、小上がり6席、2階個室最大26席)
  • 定休日
    火曜日

当ページに掲載している情報は、『法人なかま』発行当時のものです。現在の情報とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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