
マグロ仲買人が半世紀前に創業隠れ家的な鉄火丼専門店

ランチ限定の鉄火丼700円※なり。色鮮やかなミナミマグロの赤身が食欲をそそる
名店は路地裏にあり
東京の衣類産業の中心地として発展してきた岩本町3丁目には、歴史が息づいている。江戸時代、神田川沿いに造られた柳原土手は古着の露店で賑わった。現在この場所は「柳原通り」という名前の一方通行の道となっている。この歴史ある通りと靖国通りを結ぶ路地の雑居ビルの2階に、隠れた名店「鉄火丼 おやじ」がある。
「名店は路地裏にあり」という言葉がある。旅慣れた人なら、美味しい店がある路地が経験上、何となく分かるものだ。メインストリートとの位置関係や路地に建つ店の雰囲気が、探索のヒントになることが多い。しかし、初めて「おやじ」を訪れる人は、「ここにあるのか」と意表を突かれるに違いない。
さらに驚くのが、同店が50年近く暖簾を守り続けているという点だ。都心部とはいえ、一見さんが滅多にやってこない場所である。つまり、店を支えてきたのは多くのリピーターと口コミに他ならない。正真正銘の「隠れた名店」なのである。

隠れ家の雰囲気が漂う雑居ビル。

おそらく神田で唯一の鉄火丼専門店。

どこか懐かしい雰囲気の店内。

2代目の小野寺隆夫さんはとても気さくで人情味豊か。
目にも鮮やかな赤色のミナミマグロ
ランチの一番人気は中トロ鉄火丼(1,000円※)。酢飯の上に分厚く切られた中トロが5切れ、マダコ1切れ、イクラが豪快に盛られている。
「鉄火丼は本来赤身なんですが、ダントツで中トロが一番人気なんです(笑)」と気さくに答えてくれたのは2代目店主の小野寺隆夫さん。元々、小野寺さんのお父さんは築地市場でマグロの仲買人をしていた。市場は早く終わるので、その後に副業感覚で夫婦で始めたのが鉄火丼の専門店だった。今から47~48年前で、当時の店舗は今の雑居ビルのはす向かいにあったという。マグロの仲買人が切り盛りする鉄火丼は衣類の街のサラリーマンの胃袋をがっちりとつかみ、やがてお父さんは仲買人を辞めて同店の経営に専念。小野寺さんは高校卒業後すぐに調理師免許を取り、フグ専門店で3年間修業し、ふぐ調理師免許を取得し、お父さんと一緒に「おやじ」を切り盛りすることに。
「オヤジは今年で90歳になりますが、毎朝、私と一緒に豊洲市場に行っています(笑)。お店が忙しい時にはたまに来てもらうこともあります」と2代目。
メインに使っているのはミナミマグロ。メバチマグロも使う。ミナミマグロは本マグロ(クロマグロ)に次いで大きくなるマグロの仲間で、南半球に広く生息している。インド洋で多く水揚げされることからインドマグロとも呼ばれる。食味はクロマグロに似ていて、赤身はクロマグロより赤色をしている個体が多い。鉄火丼のネタとしては申し分ない。
「ランチはできるだけリーズナブルにしたいと思っているので、さすがにクロマグロは扱えません。ほかのマグロもコロナ前より1kgあたり500円ほど値上がりしました。だからうちも昨年一律50円値上げさせていただきました」と申し訳なさそうに話す小野寺さん。とはいえ、鉄火丼は分厚い赤身が7切れ載って700円※である。ラーメンが1杯1,000円を超える時代だというのに、なんと良心的なんだ。ちなみに、鉄火丼には他の定食でセットになっているしじみの味噌汁が付かない。価格をギリギリまで抑えている証だろう。

こちらもランチ限定の中トロ鉄火丼。しじみの味噌汁とおしんこが付いて1,000円※。
安くて旨い、その理由
店内は対面式の28人掛け長テーブルが2卓あり、その奥の小上がりに6人掛けの座卓が2卓。長テーブルを対面で使うのは夜だけで、ランチタイムは片側のみを使用する。丼ものにしろ定食にしろ、マグロの刺身を豪快に切って並べるだけのシンプルな料理なので、回転は速い。席に着き、注文をすると1分で出てくる。常連さんの中には注文時に「頭でっかち」をコールする人が多い。プラス100円※で、ごはんではなく刺身を通常より多めにしてもらえるのだ。
まずは鉄火丼をいただく。ミナミマグロの目にも鮮やかな赤身が食欲をそそる。赤身特有の酸味は少なく、柔らかくもっちりとした食感。これはまさか生ではあるまいかと店主に確認したところ、冷凍ものだという。昨今は冷凍技術が飛躍的に向上しているが、旨さの秘訣はそれだけではないようだ。物自体がいいということもあるが、急速冷凍されたカチンカチンのマグロを海水とほぼ同じ濃度の塩水に浸して解凍させるのだという。こうすることで生に近い食感を再現できるのである。ただし、全解凍させたマグロは日持ちがしない。だからこそ、その日に使う分のマグロを毎朝豊洲市場まで仕入れに行くのである。
続いて中トロ鉄火丼。トロは舌の上でとろけるようで甘い。クロマグロとの差が正直分からない。中トロ鉄火丼にはイクラとマダコの刺身が載っていて鉄火丼というよりは海鮮丼のようなボリューム。これにしじみ汁が付いて1,000円※というから頭が下がる。中トロと赤身だけのミックス鉄火丼(900円)もある。このほか、刺身定食(800円※)、ミックス定食(950円)、中トロ定食(1,100円※)があり、大きな違いはごはんの上に刺身が載っているか別皿かという点。また、定食のごはんは酢飯か白米かのどちらかを選べる。創業時に、小野寺さんのお母さんが寿司屋から教わったレシピでいまだに酢飯を作っていて、これが濃厚なマグロの刺身によくマッチする。
夜は17~21時まで営業。メニューはなく、基本料理は刺身盛り合わせ。ほかにフグの刺身やフグ鍋、毛ガニなどがある。夜の部も人気なので、予約は必須だ。

急速冷凍させたミナミマグロを塩水で解凍しているので生のような食感を楽しめる。

夜の部のメニューはない。基本料理はこちらの刺身盛り合わせ(2人前)。このボリュームで12,000円※(1人前6,000円※)。板ウニとアワビ、トロがベースで、あとは旬の刺身が豪快に盛られてくる。このほか、夜の部の料理はフグ刺、フグ鍋、毛ガニ、カツオなど。
※金額は『法人なかま』発行当時のものです。
レポート◎山根和明(広報委員会)
食いしん坊手帖 vol.15
鉄火丼 おやじ
東京都千代田区岩本町3-7-5
電話:03-3866-9906
- 営業時間【月〜金】
11:00〜13:30 / 17:00〜21:00 - 定休日
土曜日・日曜日・祝日
当ページに掲載している情報は、『法人なかま』発行当時のものです。現在の情報とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

