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vol.08|新世界菜館

2023.11.01

ナンバーワンではなくオンリーワン
上海ガニの「魔味」に酔いしれる

上海ガニの老酒漬け。カニ味噌と身の甘みが蒸しガニよりもさらに濃厚で、口内にねっとりとねばりつく。

かつては40軒もの中華料理店があった街

神田神保町は世界最大の本の街。大小さまざまな書店、古書店が150軒はあるといわれる。なぜ本屋が集まっているかというと、明治時代に東京大学、中央大学などの大学が次々に建てられ、学生の街として栄えたからである。これら大学には海外からの留学生も多く、大正時代には1万人以上の中国人が界隈に住んでいたという。必然的に中華料理店が増え、明治時代から続く『揚子江菜館』や『漢陽楼』といった老舗店が今なお健在だ。

「ウチは終戦の翌年に創業しましたが、最初は今でいう町中華でした。それこそカレーから親子丼まで、なんでもあり。当時はこの界隈で40軒ほどの中華料理店がありました」と話すのは、新世界菜館二代目の傅永興さん。靖国通りに面した今の店舗は地上8階建てのビルで、高級中華料理店然とした店構えである。座席数は180席で、ランチタイムにはこの席数が埋まるほどの人気ぶりある。

大小さまざまな個室があるのも人気の理由のひとつ。

向かって右が現社長の傅永興さん、左がご子息で料理長を務めている智さん。

生きたまま老酒に漬けられた酔蟹

秋から冬にかけての看板メニューは上海ガニだ。上海ガニを提供するお店は珍しくないが、同店のこだわりは生きたカニを中国から週に2回、仕入れているという点だ。上海ガニの標準和名はチュウゴクモクズガニで、日本に生息しているモクズガニと姿形はとてもよく似ている。また、繁殖力が強く「世界の侵略的外来種ワースト100」に入っていて、国内への輸入や飼育には特別の許可が必要になる。だったら、手間暇かけずに国産のモクズガニでもいいのでは?と思ってしまうが、

「どうやらカニの味を左右するのはエサのようなんです。上海ガニは中国各地で畜養されています。私は中国に何度も足を運び、各地の上海ガニを食べましたが、畜養する池によって味が違うんです。吟味した結果、南京市のそばの高郵湖こで畜養されたカニが一番でした。もちろん国産のモクズガニも試しましたが、豊富なエサで育てられた上海ガニには勝てませんでした」と傅さん。現在は高郵湖を中心に、その周辺から生きたカニを仕入れている。これを姿蒸しにしたり、フカヒレと一緒にスープにしたりするのだが、真骨頂は老酒漬けである。紹興酒やアルコール度数50度以上の白酒、塩水、生姜などをブレンドして作った秘伝の調味液に生きたままカニを漬ける。元来、上海ガニは淡水に生息するので生では食べられないが、高いアルコール度数の酒に生きた状態で漬け込むことで生食が可能になるのだ。同店では最低でも10日間以上は漬け込むという。

こうして隅々まで老酒がいきわたり、文字通り「酔蟹」となった上海ガニの旨さを一言で表わすというなら「魔味」とでもいおうか。一度賞味したら虜になってしまうほどの魔力があり、リピーターが年々増えていくのもうなずける。

「兄とふたりで、ナンバーワンではなくオンリーワンを目指そうとやってきた結果だと思います」と傅さん。

これが生きたままの状態

これは蒸した状態

オリジナルのビンテージ紹興酒

そしてもう一つのオンリーワンを挙げるとしたら同店オリジナルの紹興酒である。そもそも紹興酒は、日本酒と同じ醸造酒である。日本酒がうるち米を原料に用いるのに対し紹興酒はもち米を用いる。中国では穀物を原料にした醸造酒を黄酒といい、蒸留酒を白酒という。黄酒の中で長期熟成させたものが老酒で、紹興酒は浙江省紹興市で醸された老酒の一種。紹興市以外で醸された老酒を紹興酒と呼ぶことはできない。

「兄とふたりでさんざん現地に行き、日本人の味覚に合う紹興酒を探していくつもの酒蔵を巡りましたね」と傅さん。その中の大越酒業とは業務提携をして、大越貴酒という紹興酒を共同開発。今は紹興市と日本国内に紹興酒を醸す蔵を設けて、甕かめ単位でビンテージ保管している。一般的な紹興酒の瓶には「陳五年」などと表記されている。これは5年熟成させた紹興酒をメインに他の年代のものをブレンドして造られたものなのだが、新世界菜館の甕出し紹興酒はブレンドされる前の原酒なのである。甕から出した5年もの、8年もの、15年ものを飲み比べることもできる。紹興酒は若いほどフレッシュでアルコール感や酸味が強い傾向で、年を重ねるとともにマイルドな深い味わいになる。

先述の上海ガニの老酒漬けに用いられるのも、この紹興酒である。そしてさらに、秘伝の老酒が隠し味に用いられているのが根強い人気のカレーライスである。当初は賄い料理だったが、その美味しさから50年ほど前にメニューにラインナップされた。カレーの具材を炒める際に紹興酒がふんだんに使われるのだ。炒めた具材を煮込む際はお湯ではなく中華スープが用いられる。これだけでも美味しそうだが、できたカレーを一晩寝かせるのが秘訣だという。

「家庭のカレーも作った初日より2日目のほうが美味しいと言われますよね。特にウチの場合は紹興酒を用いることもあり、寝かせたほうがより味に深みが増すんですよね」と傅さんは目を細める。

新世界菜館では例年、上海ガニを提供するのは9月中旬から2月上旬まで。1シーズンに3万匹ものカニが調理されるという。

紹興市の大越酒業と共同開発した紹興酒。写真の白い甕で熟成させた状態で蔵に保管している。画像は5年、8年、15年の熟成紹興酒を飲み比べるテイスティングセット(各150ml)。

元々は賄い料理だったという中華風カレーライス。お客さんのご要望に応えて、豚角煮カレー、排骨カレー、カツカレーもラインナップに加わった。

レポート◎山根和明(広報委員会)

食いしん坊手帖 vol.08

新世界菜館

東京都千代田区神田神保町2-2 新世界ビル
電話:03-3261-4957

  • 営業時間
    昼の部 11:00 ~ 15:00 (L.O 14:30)
    夜の部 17:00 ~ 22:00 (L.O 21:00)
  • 定休日
    ナシ
  • 席数
    全180席
    テーブル個室全 10 室(4〜50 名用)

当ページに掲載している情報は、『法人なかま』発行当時のものです。現在の情報とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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