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vol.09|ぼたん

2023.12.01

風情ある空間で満喫
朝引きの「鳥すきやき」

見るからに新鮮な朝引きのひな鳥肉。写真は鳥すきやきコースの2人前。

奇跡のトライアングル

神田須田町一丁目。靖国通りと神田川に挟まれた三角州のようなこの一区画は、東京大空襲の戦火から奇跡的に焼失をまぬがれた。そして、戦前に建てられ、東京都選定歴史的建造物に指定された食事処が4軒、今も伝統の味を楽しませてくれる。蕎麦屋「神田まつや」、和菓子屋「竹むら」、アンコウ料理専門店「いせ源」、そして鳥すき「ぼたん」である。区画の西側は外堀通りに面しており、道を挟んだ反対側には神田エリアの再開発の象徴ともいえるワテラスのビルがそびえる。

「ぼたん」の創業は明治30年頃。ぼたんというからには、元々イノシシを扱っていたのかと思いきや、洋服のボタンにちなんでいるそう。江戸〜大正時代にかけて、この三角地界隈は連雀町という地名だった。文明開化以降は舶来の羅紗(生地)を扱う店が集まり、当時はまだ珍しかった洋服のボタンに感銘を受けた創業者が「ぼたん」と命名したといわれる。

趣のある日本家屋は眺めているだけで心に潤いを与えてくれる。格子戸を開けて暖簾をくぐると一枚板の上がり框が鎮座している。その向こうには石灯籠の中庭。なんて風情のある眺めだろう。脱いだ靴は半纏をまとった下足番が下駄箱にしまってくれた。

調理場にある大型の火おこし器。

格子戸を開けて中に入るとこんな空間が。一気にタイムスリップ。

炭火と鉄鍋とひな鳥

メインの鳥すきやきコースを頼むと、炭箱を手にした仲居さんがやって来た。炭箱の中には赤く染まった炭。この上に20年ほど使い込んでいるという特注の鉄鍋が置かれた。以降、シメの親子丼まで、仲居さんがやってくれるのだ。

具材は鶏肉各種と焼き豆腐、しらたき、長ネギといたってシンプル。割り下は醤油、みりん、三温糖、鰹だし。鶏肉は毎朝、千葉県香取市から届けられる「錦きん爽そうどり」。愛知県豊橋市で開発されたブランドで、皮が薄く脂肪が少なく、鶏特有の匂いが少ないのが特徴。

「毎日朝の7時くらいから調理場で解体します。基本的に鳥すきに使うのは生後60日ほどのひな鳥ですが、つくねだけは親鳥を用います。親鳥は肉質が固くなってしまうのですが、旨味が濃いのでつくねにもってこいなんです」と語るのは5代目の城一泰貴さん。鶏肉は鮮度が重要で、朝にさばいた肉をその日に賞味するのが最上とされる。朝早くさばいた鶏肉は「朝引き」と呼ばれる。

「豆腐は神田の老舗、越後屋さんから仕入れています。毎朝、奥さんが炭火で焼いて作っているんです。しらたきは荒川区の六幸食品さんから。これも細いのに歯ごたえがあって昔から好評です。ねぎはその時に一番いいものを届けてもらっています。味はもちろんですが見た目も重視しています」と5代目。

炭火と鉄鍋なので温度調整はできない。
ぐつぐつ煮込むと割り下が肉によく染み込む。肉質はやわらかいままだ

至れり尽くせりの鳥すきやきコース

程なくして鉄鍋の中がぐつぐつと賑やかになってきた。

「さあ、お召し上がりください」とお声がけいただき、まずはももを鍋から取り出して卵を溶いた取り皿に。卵をよく絡めてから口に入れると割り下の上品な甘さと肉のほのかな旨味が口の中で混ざり合う。肉質はやわらかく歯切れがいい。若鳥だからなのか、朝引きだからなのか。むねも同様だ。鳥特有の匂いもない。噛むほどに肉の旨味が出てくる。レバーや砂肝、ハツといった内臓系は歯ごたえがしゃきしゃきしていて、この食感だけでうれしくなる。鶏肉は鮮度が命といわれるのも納得だ。

鉄鍋を炭火で熱するので、温度調整はできない。煮詰まってきたら仲居さんが差し水をしてくれ、薄まったら割り下を加えてくれる。至れり尽くせりだ。

シメのイチオシは何といっても親子丼。若鳥やネギの旨味が凝縮された割り下の中に、溶いた卵を入れて鉄鍋でぐつぐつ。これを真っ白なごはんの上に豪快に載せる。シメというよりトリといったほうがいいかもしれない極上親子丼の誕生だ。「これをメニューに加えて欲しいとよく言われますが、今のところはやはりコースのシメとして召し上がっていただきたいと考えています」と5代目。

城一さんは店を任せられるようになってまだ2年ほど。その前は会社員。4代目、櫻井一雄さんのご長女である美也子さんと結婚をし、紆余曲折を経て跡を継ぐ決意をした。歴史や伝統は大切にしつつも、変えるべきところは変えていく。たとえば伝票などは紙だったのを全てデジタル化、座敷が苦手な方のためにテーブル席も新設。アルコールに関してもウイスキーはボトルでの販売のみだったものをハイボールの需要が高いことからグラス単位でも対応するようにした。

池波正太郎や小津安二郎も愛したぼたんの鳥すき。神田が誇るこの伝統の味を今後、5代目がどのように守り、変えていくのか楽しみである。

コースの最後を飾る親子丼。これをメニューに加えてほしいというお客が多いというのもうなずける。

昭和初期に建てられた入母屋造りの日本家屋。海外からのお客も多い。

2021年に5代目に就任した城一泰貴さん。伝統を守りつつも、新しいことにも積極的に取り組んでいる。

レポート◎山根和明(広報委員会)

食いしん坊手帖 vol.09

ぼたん

東京都千代田区神田須田町1-15
電話:03-3251-0577

  • 営業時間
    【月〜土】11:30〜21:00
  • 定休日
    日曜日・祝日
  • 席数
    全110席
    座敷個室あり(5名〜40名様用)
    宴会最大人数 着席時約40名

当ページに掲載している情報は、『法人なかま』発行当時のものです。現在の情報とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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