
江戸情緒あふれる
都内唯一のアンコウ料理専門店

「7つ道具」がすべて入ったアンコウ鍋。「西のフグ、東のアンコウ」と称されるようになったのは、いせ源のアンコウ鍋が大ヒットしてからという。写真は2人前。
せっかちな江戸っ子に支持されたアンコウ鍋
オコゼやカジカなど魚は不細工なほうが食べると美味しいとよくいわれるが、その代表格がアンコウだ。神田須田町に都内で唯一のアンコウ料理専門店がある。創業193年の「いせ源」だ。初代の立川庄蔵が天保元年(1830年)に、現在の京橋で「いせ庄」というドジョウ料理屋を始めたのがルーツ。2代目の立川源四郎が現在の須田町に店を移転し、店名を「いせ源」に改名した。当初は寄せ鍋や牡蠣鍋といった鍋料理屋だったが、大正時代に4代目の立川政蔵がアンコウ料理専門店に舵を切った。
元々、アンコウ鍋は味噌仕立てだった。いわゆる「どぶ汁」で水は使わず、アンコウから出る水分と野菜の水分に味噌と肝を溶いて味付けするのが一般的な食べ方だった。しかし、これだと調理に時間がかかるのと、骨もついたままなので、せっかちな江戸っ子には若干抵抗があった。そこで、4代目が醤油仕立ての現在のスタイルにしたところ、これが大ウケして、アンコウ料理一本にしたそうな。
「アンコウって、骨がない魚なんですね、とおっしゃって帰られるお客さんがいますが、むしろその逆で、骨などをきちんと取り除くと歩留まりとして4分の1くらいになってしまうんです」と話すのは店主の立川博之さん。大学卒業後、金融機関で2年間働いた後、先代の父が体調を崩したのをきっかけにお店を継ぐことに。それから16年、今では頼もしい7代目である。
冬場にスーパーの鮮魚コーナーに並ぶアンコウ鍋セットは、可食部よりも骨のほうが多いイメージがある。いせ源では、吊るし切りで捌いた後の各パーツを適当な大きさに切った後、湯がいて骨やぬめりなどを手作業で取り除いている。こうすることで、くさみが消えて骨も当たらず格段に食べやすくなるのである。

昭和5年に建てられた現在の店舗。タイムスリップ気分を味わわせてくれる。

一子相伝の秘伝の割り下。利尻昆布と特注の鰹節をふんだんに用い、醤油、砂糖、みりんで味付けしている。
産地へのこだわり
現在、アンコウの産地としては茨城から福島にかけての常磐エリアが有名。実は近年の水揚げ高日本一は、フグの産地である下関なのだ。しかし、いせ源が仕入れるのは、常磐でも下関でもなく、青森県下北半島の風間浦と北海道南部の余市、寿都がメイン。「大きさでいうと最も美味しいのは8〜12kg で、水温が低い海域で獲れたものが身の締まりがいいです。また、イカをたくさん食べて育ったものは、肝の色がオレンジ色に輝いているんです」と7代目。これらの条件を満たす魚体が、上記3エリアでよく獲れるという。中でも風間浦は漁場が港から比較的近い浅場で、刺し網漁でアンコウを活きたまま漁獲することが可能なのである。博之さんは以前、風間浦に足を運び、活きたまま水揚げしたアンコウの活締めの方法を指導。これにより鮮度の落ち方を緩やかにして東京まで運ぶことができるようになった。運ぶ際の温度を5〜7度に保ち、刺身としても提供できるようになったのである。「風間浦産のアンコウが入るのを楽しみにしているお客さんもいますが、大体11〜3月になります。それ以外は余市か寿都ですが、鍋で食べる分には風間浦と遜色ありません」。

昭和の空間でいただく冬の味覚の王様
神田須田町には東京大空襲の被害を奇跡的に免れた名店が、今でも数軒残っている。その内の一軒がいせ源で、今の建物は戦前の昭和5年に建てられたもの。風情ある入母屋造りの日本家屋は東京都選定歴史的建造物に指定されている。入口の格子戸横のショーウインドウには、水揚げされて間もないアンコウが丸ごとディスプレイされている。初めて訪れる人は、この時点で期待値が大幅にアップするはず。そして、格子戸を開けて中に入ると、天然石の三和土と磨き抜かれた上りかまちに瞳を奪われ一気に昭和にタイムスリップ。板張りの美しい階段を上って2階に行くと、落ち着いた日本間が広がっている。全120席。10部屋に区切ることもできる。元々、予約は6人以上のみ受け付けていたが、コロナ禍で少人数でも予約を受けるようにした。
手軽にアンコウ料理を楽しめる8,500円※のコースもあるが、きも刺しが付くのは1万円※のコースから。そして、冬季限定の刺身が付くのは1万5,000円※のコースから。アンコウは骨以外捨てるところがないと言われる。三枚におろした身、皮、肝、あご肉、ヒレ肉、卵巣、胃袋は「アンコウの7つ道具」と呼ばれる。いせ源の鍋には、この7つ道具はもちろん、それ以外の部位も用いられているという。合わせる野菜はウド、三つ葉、銀杏、椎茸、絹さやなど。これらを代々店主のみにより作られる秘伝の割り下でぐつぐつ煮込む。出汁は利尻昆布と鰹節。鰹節は日本橋の老舗問屋に特注している。魚の仕入れから下処理まで、これほど手間暇かけた鍋料理というのは他にあるだろうか。風情ある日本間でいただく、比類なきアンコウ鍋。歯ごたえ、食感、深い滋味。冬の味覚の王様と呼ぶに相応しい逸品だ。
※金額は『法人なかま』発行当時のものです。

アンコウを吊るし切りにする7代目。慣れた手つきであっという間に解体された。

格子戸横のショーウインドウにディスプレイされたアンコウ。取材時は夏季ということもあり小ぶりの5㎏クラス(余市産)

昭和の雰囲気が漂う日本間。東京のど真ん中で非日常を満喫できる。

7代目店主の立川博之さん。神田法人会青年部会の会員でもある。
レポート◎山根和明(広報委員会)
食いしん坊手帖 vol.07
東京都千代田区神田須田町 1-11 -1
電話:03-3251-1229
- 営業時間
【月~金】
昼の部 11:30 〜14:00(L.O.13:30)
夜の部 17:00 〜 22:00(L.O.21:00)
※土・日・祝日は通し営業
※日曜は、閉店時刻21:00(L.O.20:00) - 定休日
月曜日(4 〜10 月は日・祝・月)
※夏季休業・年末年始休業あり - 席数
全120席
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