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日本の「能」から世界の「能」へ、伝統文化の継承・普及を使命に

株式会社 檜書店




代表取締役(四代目)の檜 常正さん





初期の版木。職人が1頁1頁手で文字を彫り、刷っていたという



 歌舞伎と並ぶ日本の伝統芸能でありながら、能・狂言の世界は何故か「難しそうだ」「敷居が高いな」といった印象がつきまとう。しかし最近は、かなり目立った変化が見られるという。各地で「薪能(たきぎのう)」が盛んだし、「謡(うたい)、仕舞(しまい)教室」もある。この分野の専門出版社を訪ねる。

─売場を拝見して、明るさに驚きました。

 能楽というと暗いイメージをお持ちだったかと思うんですが、本来、とても華やかで美しいものなんです。舞台、装束、面など。最近はCDやビデオ、写真集なども出てますし、趣味の雑誌で特集が組まれたりします。興味を持つ若い層も確実に増えています。

─能楽関係の専門出版社として神田とのご縁は。

 始まりは京都です。万治二年(1659)、江戸時代の前期、版権を譲り受けて遠い祖先が観世流謡本の出版業を始めた。「檜」という屋号を使い始めたのが幕末の慶応二年で約百五十年前。そこから数えて私が四代目。七年の銀行勤めを経て五年前に継いだばかりです。東京に店を出したのが大正六年。本屋さんの町ということもありますが、神田には猿楽町がある。能楽は猿楽が進化したものと言われています。そんな縁も感じます。
─最も歴史のある出版物が「謡本」。音楽でいえば楽譜ですか。

 能楽師や、能楽のプロを目指す人たち必携の本。楽譜であり教科書です。能には五流ありますが、当社では観世流と金剛流の謡本を出版しています。和紙を使う和綴じ。昔は一頁一頁職人が木版に彫り刷っていました。今は木版は使いませんが和綴じはそのままです。

─最近はどんな変化が見られますか。

 謡本や流派誌の「月刊観世」はいわば専門家向けの本ですが、能楽を観賞する方々に向けた出版物が増えています。例えば「まんがで楽しむ能・狂言」、「野村萬斎What is狂言」、「よくわかる謡い方」といった入門書。「薪能」が全国に普及し三百を超えています。狂言ではテレビなどで幅広く活躍している野村萬斎というスターの誕生が大きいですね。

─能・狂言への入り口はどの辺に?

 いきなり全部を理解しようと思わず、まず身近なものから。例えば、神田明神の薪能を見る。能楽は総合芸術ですから幅広く奥が深い。物語、舞、謡、楽器、能面、装束などいろいろ。それで何か魅かれるものがあれば、当店へ寄っていただく(笑い)。各分野のやさしい解説書が見つかります。それから能楽堂へ行く。演じてみたいと思ったら、九段教育会館などの手軽な「謡、仕舞の教室」へ。敷居が高いと感じるのは情報が少ないからで、それを低くするために役立ちたいと思ってます。



いまでも和綴じを守っている謡本



現代風の入門書
─これから将来、どのような舵取りを。

 能楽がユネスコ世界無形遺産に指定されました。国際交流もさらに進むでしょう。外国人のファンも増えており、英文の出版も考えています。世界に誇る日本文化、国際人として日本人に欠かせない教養として、能楽の普及に全力で取り組みたいと考えています。
会 社 名株式会社 檜書店 ひのきしょてん(創業1659年)
住  所東京都 千代田区 神田小川町 2−1
電  話03-3291-2488
事業内容観世流、金剛流宗家本発行元、能楽関連図書、出版・販売、謡曲・仕舞お稽古用品販売