本文へジャンプ

経営者のための法律相談

第28回 危険負担

1、東日本大震災による建物倒壊

 本年3月11日、東北地方を未曾有の大震災が襲い、多くの建物が倒壊しています。このように、1個の建物の全体が失われることを法律では「滅失」といいますが、先の大震災では建物の売買契約が成立した後、買主への引き渡しまでの間に建物が滅失したというケースも少なからずあったのではないかと思います。
 そこで今回は、そうしたケースにおいて民法上どのように処理されるか、また事前にどのような法的手当てができるのかについて、「危険負担」制度を紹介しつつ買主側のリスクヘッジという観点から検討したいと思います。

2、「危険負担」とは何か?

「危険負担」とは、正確には「双務契約において一方の債務が債務者の責任によらず、履行不能となり消滅した場合に、他方の債務がどのような影響を受けるか。」という問題です。以下の例を見ながら考えたいと思います。

(例)建物を4000万円で購入する売買契約が成立した後、その引渡し前に建物が自然災害のような当事者に全く責任のない事情で滅失した場合に、買主は代金4000万円を契約どおり支払わなければならないのでしょうか。

3、民法によればどうなるか?

結論から言いますと、民法534条1項によれば、上記具体例の場合、買主はたとえ引き渡しを受けてなくても4000万円を支払わなければならないということになります。
 民法では建物のような「特定物」の取引においては、売買契約時に所有権が移転するとされており、建物の所有権の移転とともにその滅失のリスク(危険)も買主に移転すると考えられているからです。
 しかし、これは建物を一度も使っていない買主にとっては、建物を取得できずに代金だけ払わされるという酷な結論であるように思えます。 

4、建物の買主としてこのようなリスクを回避するには?

 以上のような結論は、買主にとってリスクの大きいものですが、民法534条1項の規定は任意規定(当事者間の合意で変更できる規定)ですので、当事者間の契約で「危険負担」の内容を変更することが可能です。
 したがって、実際の契約においては、その点については当事者間で交渉し建物滅失のリスクをできるだけ回避する内容、すなわち買主への「危険」の移転時期をできるだけ遅らせるように取り決めておくことが得策です。

5、契約書における特約の定め方

 実際の取引実務においては特約により民法とは異なる「危険負担」の内容となっている契約書がほとんどです。
 例えば、「本件契約成立後売買残代金支払いの日までの間に、本物件の一部又は全部が売主又は買主の責めに帰すことができない事由により滅失又は毀損したときは、その滅失又は毀損による危険は売主が負担する。」というように売買代金支払完了まで、売主に建物滅失のリスクを負担させる場合があります。
 また、「本物件の引き渡し前に、売主または買主のいずれの責めにも帰すことのできない事由によって本物件が滅失したときは、買主は、この契約を解除することができる。」というように、引渡時まで売主に建物滅失のリスクを負担させつつ、買主に解除権を留保するという場合もあります。

6、最後に

 当事者間の合意により、契約書の定め方は様々ですが、危険負担は売買契約書において非常に重要な条項の一つですので、十分にその文言や内容をチェックすることが必要です。少しでも疑問があれば弁護士に契約書案のチェックを依頼することをお勧めします。

法人なかま 2011年7月号掲載