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vol.38|和食・ワイン葡萄屋(ぶどうや)

2026.05.01

和食とワイン、その先にある一杯へ。

重厚な木のカウンターと柔らかな照明が印象的な店内。落ち着いた空間でゆったりとワインやカクテルを楽しめる

ワインは知的なゲーム

「ワインっていうのは知的なゲームなんですよ。知識があればあるほど楽しめるんです。ウイスキーや日本酒は『これしか飲まない』というこだわり方もあっていい。でもワインはバラエティを楽しむお酒なんです」と話すのは、秋葉原の駅前で『和食・ワイン 葡萄屋』を営む松岡正記さんだ。生まれも育ちも秋葉原の松岡さんが、自らの思いを強く込めて始めたのが「葡萄屋」だった。今年で21年目を迎える。
再開発が進み、新しい企業と新しい働き手が集まり始めた当時の秋葉原に、松岡さんは可能性を見ていた。
「ワインといえば、フレンチなどの洋食ですが、実は和食にも合うんです。銀座などにはありましたが、秋葉原、神田界隈には皆無でした。だから、ここでやりたかったんです。和食とワインを謳った店の先駆けだと自分たちでは思っています」と松岡さんは目を輝かせる。
つくばエクスプレスの開業、ヨドバシカメラの進出、複合施設UDXのオープン——街が近代化していくなかで、ワインを好む新しい客層が必ずいるはずだと踏んだ。もともと不動産業を営む松岡さんが、「この町で自分の思いを込めたものをやりたい」と一念発起したのが始まりだ。
現在は同店の他に「メゾンブドウ」「葡萄屋はなれ」「THE BAR 葡萄屋」「かき氷 葡萄屋」「やきとりワイン炭葡萄」など、6店舗9業態を展開するまでになった。「あれもやりたい、これもやりたい。可能性の追求ですね」と笑う。
もっとも、開業当初からソムリエがいたわけではない。募集をかけたが良い人材がなかなか見つからず、松岡さん自らスタッフとともに勉強を始めた。「みんなで勉強してやろうねって、5、6年かかりましたけど」。今では各店舗に1、2名のソムリエが在籍し、会社がソムリエの受験料を負担する制度も整えた。合格後は一定期間の在籍を条件とするなど、人材育成への投資がこの店の厚みをつくってきた。かつては着物を着た女性スタッフがサービスするというこだわりのコンセプトも掲げていた。和食とワインという組み合わせに、日本の美意識をもう一枚重ねたい——そんな松岡さんらしい発想だ。

海老を中心に、ウド、こごみ、ウルイ、タケノコなど旬の山菜を盛り合わせた天ぷら。軽やかな衣とほろ苦い春の香りが、白ワインの爽やかな味わいとよく調和する。天ぷら盛り合わせ(2000円)

豊洲などから仕入れる鮮魚を盛り込んだ刺身の盛り合わせ。ヒラマサや本マグロ、サメガレイ、サーモンなど、その日の仕入れで構成される。醤油だけでなく、オリーブオイルと塩で味わうことで、ワインとの相性が一層引き立つ。刺身盛り合わせは2人前2300円〜

ソムリエが選び、ソムリエが売る

料理の中心は、豊洲などから仕入れる鮮魚を軸にした本格和食だ。刺身は醤油だけでなく、オリーブオイルと塩でも楽しませる。「そうするとワインが飲みたくなるし、またこれがワインによく合うんです」。トリュフの香りをまとわせたきんぴら、赤ワインで煮込んだ大人の肉じゃが、トリュフのだし巻き卵、日によってはフォアグラの西京漬けも登場する。和食でありながら確かにワインを呼ぶ料理——その発想の自由さがこの店の真骨頂だ。料理を盛る器にも目配りがされており、将来の人間国宝との呼び声も高い陶芸家・内田鋼一さんの作品を使うなど、松岡さんの美意識は皿の上にまで及んでいる。
ワインの仕入れは、国内の輸入業者約30社と取引しながら、各店のソムリエが銀座、渋谷、新宿などで開かれる試飲会に足を運び、自分で選んで自分で売る。「安いワインをいくらたくさん並べても意味がない。本数じゃないんです」。500本を超える在庫を抱えながらも、常に新しい一本を探し続けるのはそのためだ。
客の好みも細かく把握する。樽の効いたしっかりとした味わいを好む方にはそれを、エレガントなタイプを好む方にはそれを。料理に合わせて選んでほしいと言われれば、その都度変えて提案する。「同じ品種でも生産者やビンテージが違うと全く違った味わいになる。熟成すれば香りも変わる。そういうのを楽しんでいただけると嬉しい」。ワインは知的なゲームだ、という言葉の意味が、ここに来るとじわりと腑に落ちる。
カウンターの奥にはテーブル席があり、暖簾で仕切られたボックス席は2〜4名で利用できる。さらに2階の『にかい』には2〜10名対応の完全個室も用意されており、用途に応じて使い分けられるのも嬉しい。

春の味覚・ホタルイカと春キャベツのおひたし(800円)。繊細な味わいに、やさしい酸味のワインがよく合う一皿

タコや白身魚の刺身を醤油だけでなくオリーブオイルと藻塩でも楽しめる。和食とワインをつなぐ葡萄屋ならではのスタイル

フルーツと氷から生まれた、バーとかき氷

6店舗9業態のなかでも近年特に話題を集めているのが、昭和通り口から徒歩4分の「THE BAR 葡萄屋」だ。洗練された空間でフルーツカクテルを提供するオーセンティックバーで、フルーツリキュールに頼らず、生の果実と純氷にこだわる。「そのフルーツと氷があるなら昼はかき氷屋になれる」という発想から、同店の昼の顔として「かき氷 葡萄屋」も誕生した。かき氷好きの奥様とともに合羽橋のスクールへ通い、都内の名店を食べ歩いて生み出した一杯は、1500円から2000円超という価格帯ながら、今では夏になると行列ができ、地方からわざわざ訪れる客も少なくない。

生まれも育ちも秋葉原。この地域のPTA会長も務めた松岡さんは、「誰と飲むか、何を食べるか、何を飲むか、これが大事なんです」と言い切る。和食とワインを秋葉原に根づかせ、変化を恐れず次の形を探し続けてきた20年。その原動力を問うと、こんな言葉が返ってきた。「食べることは生きること。生きることは食べること。だから、やめられないんですよ」。松岡さんの美食探究はまだまだ続く。

アルザスの生産者ドメーヌ・ベーラーによる「モルス・ブラン」。ピノ・ブラン主体のやわらかな味わいで、天ぷらによく合う。ソムリエが試飲を重ねて選び、料理や客の好みに合わせて提案されるのも、この店ならではの魅力だ

「葡萄屋」を立ち上げた松岡正記社長(左)と店長の遠藤健矢さん(右)。ワイン文化を秋葉原に根づかせてきた立役者だ

レポート◎山根和明(広報委員会)

食いしん坊手帖 vol.38

和食・ワイン 葡萄屋(ぶどうや)

東京都千代田区神田佐久間町2-18
電話:03-3863-2108

  • 営業時間:17:00~23:00(L.O.22:30)
  • 定休日:日曜・祝日
  • 席数:カウンター席・テーブル席あり
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