
ハンター・シェフが厳選
本物の味を楽しめるジビエ専門店

350kg の大型ヒグマのモモ肉のポアレ。この赤身がヒグマの特徴。ジビエは基本的に時価だが、この日は120gのポアレが4,230円。
ハンター・シェフが満を持して2021年にオープン
2023年7月30日、北海道釧路の牧草地で寝そべっていたヒグマがハンターに仕留められた。全長2.2m、体重330kg、9歳のオス。解体後に、66頭の牛を襲い32頭を殺した「OSO18」だったということが判明。あっけない最期を迎えた伝説の狂暴グマは白糠町の精肉加工会社で解体され、一部は食用として流通。その一部を入荷した一軒が、JR 御茶ノ水駅から徒歩3分のジビエ専門店「グルマンズ」だ。
オーナーシェフの中里寛さんは48歳。狩猟免許を持つハンターだ。元々、同地で熟成肉専門店を経営していたが、コロナで止む無く休業。店を閉じてから、仕事仲間と3人で小田原市や三重県尾鷲市などで有害鳥獣駆除のハンターとして働いた。手当もまずまずだったが、それ以上に多くのハンターとつながることができたのが大きかった。元々、福島県会津地方の山村で生まれ育った中里さんは、子どもの頃から魚を捕ったり山菜やキノコを採って民宿に売ったりしていた。高校卒業後すぐに上京し料理人になるべくホテルでフランス料理を学び、30歳で独立。以降、さまざまなレストランの経営に携わってきた。未曽有のパンデミックにより外食産業の見通しがまったく立たないなかで、中里さんはこれならいけるとジビエ専門店の開業を決意。そしてコロナ禍の2021年6月にオープンさせたのだった。狙いは的中し、ほぼ毎日満席近い状態が続いているという。
「元々は新橋や六本木で働いていたのですが、2011年から神田でいくつか店をやるようになって、すっかり神田が気に入りました。競争も激しいですし、お客さんの舌も肥えているのですが、胃袋を掴んでしまえばこっちのもので(笑)。一度認めてもらえると、皆さん義理堅く通ってくれるんです」と中里さんは豪快に笑う。

ジビエの料金の目安。単品でもオーケーだが、コース料理もある。

落ち着いた雰囲気の中に燦然と輝く狩猟の証。テーブル席24席、カウンター6席。
ジビエの決め手は肉の処理と熟成にあり
ジビエというと臭いとか固いとかキワモノ系をイメージされる方も少なくない。
「これはジビエにかぎった話ではありませんが、肉は処理の仕方と熟成の仕方で、食味が全く違ってきます。私は普通に流通しているジビエは絶対に使いません。なぜなら、どんな処理の仕方をされたか分からないからです。きちんとした処理施設で解体できるハンターからしか私は買いません」と中里さん。
スーパーで売られている牛肉、豚肉、鶏肉には血が付着していない。当然、牛にも豚にも鶏にも血は流れていて、解体時には大量の血が出る。しかし、食した際に血は臭みの元になるため、しっかりと血抜きをして肉に血を残さないで処理をするというのが精肉の基本である。一方、狩猟で仕留めたジビエの場合、ハンターがどこまで手間暇かけてそのような処理をするかによって、雲泥の差が生じるのだ。
解体後は細胞を極力破壊させない急速冷凍、超低温保存が好ましいが、すべての処理施設がこのような設備を備えているわけではない。同店ではこうしてきちんと処理された肉を、さらに店内の熟成庫で時間をかけてじっくりと熟成させるのである。おそらく、ジビエに対して負のイメージを抱かれている方は、肉のポテンシャルを最大限に引き出すこれらの処理を施されなかった料理を賞味してしまったに違いない。本当のジビエがどれだけ美味しいかを理解するためには、グルマンズに行けば分かると言っても過言ではないくらい、中里さんは処理と熟成に徹底的にこだわっている。

山形県舟形直送マッシュルームと生ハムのサラダ~シェリービネガー風味~。小国川潤す舟形町で採れた新鮮なマッシュルームをふんだんに使用したサラダ。シャキシャキした食感でテンションも上がる。

看板料理のひとつでもあるジビエのパテ。ボリューム満点。この日はシカ、イノシシ、ヒグマ、アナグマの肉を刻んでこねて1週間熟成させたもの。日によって使われるジビエの種類が微妙に異なる。
ジビエが今、注目される理由
農水省の調査では、野生鳥獣による農作物の被害額は平成22年の239億円をピークに減少を続けているものの、令和4年度でも156億円が計上されている。被害の大半はイノシシとシカによるもの。ちなみに、令和4年のシカの捕獲頭数は72万頭で、その内57万頭が駆除で15万頭が狩猟によるもの。同年のイノシシは59万頭で駆除が40万頭、狩猟が19万頭。いずれも7割は駆除によるものだが、食肉として利用されているのは1割程度だという。ジビエをいただくということは、日本人が大切にしてきた「もったいない」の精神にも則っているし、今風に言うならSGDs的ともいえるし、牛や豚などよりも高タンパク、低カロリーで身体にもいいということが分かっている。
グルマンズがメインに扱うのはシカ、イノシシ、アナグマ、ヒグマ。いずれも駆除されたものが大半。
「いろいろと手がかかっていて値段的にはどうしても高くなってしまいますが、ぜひ一度食べていただきたいです。もう自信しかありません」と自信満々の中里さん。この日いただいたメインはヒグマのポアレ。中里さんが心から信頼しているという北海道は紋別のベテランハンターが仕留めた350kg クラスのモモ肉だ。まず、フライパンで表面を焼いた後、オーブンで5分程度低温調理。時間をかけてじっくりと低温で熱すことで、肉質が固くなるのを防げる。その後、20分ほど休ませて肉汁をまんべんなく全体に吸収させる。最後に表面をフライパンでサッと火を通す。焼きあがったヒグマのモモ肉は、馴染みある牛のサーロインステーキのよう。ぷりぷりの脂が付いて、中は赤い。レアのようだが、ウェルダンなのだという。この赤身がクマの特徴なのだそう。赤身部分にナイフを滑らせるとスススッと入っていく。これが本当に350kgのヒグマなのかと拍子抜けするくらい柔らかい。赤身部分を一口サイズにカットしていただく。臭みはまったくない。噛むと肉汁が赤身全体からじわじわと出てくる。滋味は濃厚だが、牛よりもさっぱりしている。続いて脂身をいただく。ぷりぷりの脂が舌で溶けて赤身の肉汁とまじわり、まろやかな旨味がいつまでも口に残る。これは病み付きになりそうだ。
ジビエの猟期は冬場だが、当店は超低温冷凍庫で良質な肉をキープしているし、有害駆除の肉は周年入手できる。ワインセラーにはソムリエ厳選のワインが100種類ほど収まっている。

中里さんが仕留めたシカ。

こちらも中里さんが仕留めたアナグマとバンビの毛皮。アナグマの毛皮は猟師の尻当てとしてよく使われた。

ハンター兼シェフの中里寛さん。とても気さくでユーモラスなグルマンだ。
レポート◎山根和明(広報委員会)
食いしん坊手帖 vol.13
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