
「カレーの街」で燦然と輝き続ける
欧風カレーのパイオニア

人気のビーフカレー。カレーはライスとポテトがセットで、ライスにはチーズ、かっぱ漬け、梅干しが載っているのがデフォルト。
神保町はいつからカレーの街なのか
神田神保町といえば、「本の街」とともに「カレーの街」としても、その名を広く知られている。カレー専門店だけでおよそ60軒、カレーを提供する喫茶店なども含めると100軒を超えるといわれる。なぜ、神保町にはカレー屋が集まっているのか。これには諸説がある。明治時代から多くの学校が集まり学生街として栄えた歴史があり単に若者が多かった(若者=カレー好き)というものや、本を読みながらでもカレーは片手で食べやすいから、中国やインドからの留学生が多かったからなどなど。真偽のほどはともかく、ひとついえるのは神保町がカレーの街になったのは、それほど昔ではないということだ。
この街を代表する名店「欧風カレー ボンディ神保町本店」(以下ボンディ)の創業は昭和48年。ただし、当初は板橋区高島平で「インディラ」という店名だった(今も営業中)。ボンディが現在の「神田古書センター」の2階で営業を始めたのは、同ビルが竣工した昭和53年から。神田古書センターの1階には、神保町で一番の老舗古書店、創業明治8年の「高山本店」が店舗を構えている。
「高山本店のご主人はとてもグルメで、昭和53年にこのビルを建てた際に、ここでカレー屋をやりませんかとインディラを創業した先代にお声がけくださったそうなんです」と話すのは、2010年からボンディの店長を務めている秋田隼介さん。その当時、神保町界隈で営業していたカレー屋は「スマトラカレー共栄堂」だけだったそう。本の街のシンボル的な存在になった神田古書センターには多くの人が集まり、当時まだ珍しかった欧風カレーはたちまち人気になった。その後、「まんてん」、「ガヴィアル」、「エチオピア」などの個性的なカレー専門店が営業を開始し、神保町はしだいに「カレーの街」として注目されるようになったのである。
フランスで産声をあげた欧風カレー
1968年、ボンディの創業者、故・村田紘一さんは絵や彫刻の勉強のためにパリへ留学。知人が経営するフレンチレストランを手伝っていた時に、フランス料理の基本となるソースの奥深さに魅了された。その中のひとつ、ブラウンソースにカレーの素材を加え試行錯誤を重ねた結果、ボンディのカレーソースが誕生したのである。ブラウンソースがベースにあることから村田さんは欧風カレーと命名。
当時、日本でカレーといえば、ジャガイモやニンジン、タマネギ、豚バラ肉などの具がたくさん入ったライスカレーが一般的だった。それに対して、村田さんの創作した欧風カレーは、野菜などの具材は煮込む過程でソースの中に溶け込み、固形物としてカレーソースの中にあるのは肉のみである。しかも、カレーソースはライスの上にかけられた状態ではなく、ステンレス製のソースポットに入っている。多種多彩の野菜、果物と乳製品が溶け込んだソースには不思議な甘さがあり、そしてその中にカレーとしての辛さが秘められている。欧風カレーというネーミングに加え、斬新なビジュアル、とろけるような旨味。創業から半世紀経った今でも、人気は衰えるどころか、むしろ昨今のネットや SNSの影響で高まる一方である。グルメサイト「食べログ」のカレー部門「口コミが多いランキング」において、ボンディは全国の頂点に君臨している(令和6年1月現在)。

8~9時間じっくり煮込まれた角切りのビーフがごろごろ入っている

自家製のなめらかプリン。表面は焼き目がありパリパリで中はとろけるようで、とても濃厚。カラメルソースの入ったポットが付いてくる。
ジャガイモが付いている理由
ボンディのカレーには、蒸したジャガイモが2つ付いている。読者の皆様の中にも「なんでジャガイモが付いているのかしらん」と疑問に思った方も少なくないはず。
「昭和のライスカレーにはジャガイモが必ず入っていたので、先代も熟慮を重ねた上で、このスタイルになったようです。煮込み時間が長いので、ソースに入れようとするとどうしたってジャガイモは溶けてしまいます。このスタイルなら好みに応じてソースに入れられます。実際、ジャガイモを適当な大きさにカットしてソースに入れる方もいますし、マッシュポテトのように潰して入れる方もいます。フランスではジャガイモを主食として食べる文化もあるようです。とにかく、お客さまに満腹になってもらいたいという先代のこだわりなんです」と秋田店長。
秋田さんは2006年からボンディでアルバイトを始めた。当時はバンドでデビューすることを夢見ていたが、先代から店長をやってくれないかと頼まれ現在に至る。
「元々、カレーが好きで神保町にカレーを食べによく来ていたんです。ボンディに来たときにちょうどバイトを募集していたのが縁でしたね」。秋田さんのようにカレーが好きでボンディで働き始めた人の中に、独立した人もいる。都内だけでも小川町、大手町、芝浦など5店舗がある。どの店舗でも同じカレーを食べられるよう埼玉県和光市にセントラルキッチン(工場)を造り、そこで秘伝のカレーソースが作られ各店舗に毎日届けられる。神保町で営業を開始してから半世紀以上。いまだに本店には平日、祝日関係なく長蛇の列ができる。かつて、アーティストを夢見て渡仏した青年が創作したカレーは、この先も多くの人々を魅了し続けるのだろう。

神保町の風景にすっかりなじんでいるボンディの看板。

これが神保町の「神田古書センター」。ボンディはこのビルの2階。

昭和の雰囲気が漂う店内。約20坪、全44席。

本店の店長を10年以上務めている秋田隼介さん。カレーが好きでボンディで2006年にアルバイトを始めて今に至る。
レポート◎山根和明(広報委員会)
食いしん坊手帖 vol.11
東京都千代田区神田神保町 2-3
神田古書センタービル 2F
電話:03-3234-2080
- 営業時間
【月~金】11:00 〜 21:30(L.O 21:00)
【土日祝】10:30 ~ 22:00(L.O 21:30) - 定休日
なし - 席数
全44席 予約不可
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