入会案内
お問い合わせ

vol.16|神田志乃多寿司

2024.06.01

神田に伝わる100年の味一子相伝のいなり寿司

特製のタレがたっぷり染み込んだ油揚げが特徴の「しのだ」

神田っ子のソウルフード

神田で生まれ育った神田っ子のソウルフードといえるのが、神田志乃多寿司のいなり寿司である。運動会や冠婚葬祭、法要、お祭りなどの行事では必ずと言っていいほどこの伝統のいなり寿司をみんなで食べた。
「お客様の中には子供の頃に食べ過ぎて、いなり寿司はあまり好きではないとしばらく遠ざかる方もいらっしゃるのですが、大人になってから懐かしの味を求めてまた戻ってきてくださるのです」とうれしそうに話すのは、4代目の原田勝信さん。18歳で青森は津軽から上京して、「神田」のブランドに惹かれて同店の門を叩いた。
「そりゃ、昔は厳しかったですよ。今じゃ口にするのもはばかれますが、2年間はずっと下働きでした。早く一人前になりたくて、寝る暇も惜しんで修行しましたね」と勝信さん。
創業明治35年。人形町の志乃多寿司から独立する形で、初代の原田直平が現在の淡路町に店舗を構えた。いなり寿司とのり巻き(かんぴょう巻き)の専門店で、当時は人力の大八車で得意先に運んでいた。昭和37年には現在のビルになり、東日本大震災の前年の2010年に耐震補強の改修工事を終え、現在に至る。

一人前の職人は1時間に150~200個のいなり寿司を握る。この道40年以上の4代目は、握ったいなり寿司を桶に置く時には、左手で次の油揚げを掴んでいた。

いなり寿司のルーツ

いなり寿司のルーツは店名にもなっている志乃多巻き(信太巻き)にあるようだ。信太巻きとは油揚げの中に野菜、おから、魚の練り物などを入れたもの。野菜やおからではなく、酢飯を入れた現在のいなり寿司が初めて文献に出てくるのは江戸時代末期である。いなり寿司のことを元々は「しのだ寿司」と呼んでいたようで、同店でもいなり寿司は「しのだ」である。
「一口にいなり寿司といっても、地域によって味付けも違えば、具材も違うんですよね。ウチはレンコンが入っていますが、地域によっては五目ご飯が入っていたり、紅ショウガが入っていたり、洋ガラシが入っていたり。形も違いますしね。私は地方に行ったらスーパーや和菓子屋に寄って当地のいなり寿司を食べるようにしています。勉強になりますが、やはりうちのいなり寿司が一番美味しいですね(笑)」と勝信さん。
本店の地下にコの字型のカウンターと4人掛けテーブル席が3卓あり、コロナ前まではここで食べることができた。しかし、コロナ以降、人手不足もあり、イートインはまだ再開できていない。今はテイクアウトのみである。また、〇〇ハラスメントなどが定着する以前は、会社の運動会や研修などで500個とか1,000個とかまとまった数の注文がよく入ったというが、今はその類の注文はめっきり減った。代わってインバウンド客が増えており、売上はコロナ前よりもむしろ伸びているという。

こちらは太巻き詰め合わせ。内容はしのだ3個、かんぴょう巻き3個、太巻き2個。太巻きはたまご、おぼろ、きゅうり、かんぴょう、れんこん、しいたけが入っている

冷ますことで深まる味

油揚げは前日の午後から仕込みを始める。まずは5,000~8,000枚の油揚げを熱湯にくぐらせる。油を取ってから、創業以来変えていないという特製のタレで20分間煮込む。タレは醤油、みりん、砂糖しか使っていない。しかし、白砂糖、黒砂糖、ざらめ、水飴など砂糖に一子相伝のレシピがあり、これが独特の甘さを創り出しているようである。20分間煮込んだらバットにあげて一晩寝かす。
「味というのは冷める過程で深味を増していくんです。ほら、カレーライスも一晩寝かせたほうが美味しいと言いますよね。あれと一緒です」と4代目。
そして翌日、いなり寿司を握る前にもう一度特製ダレで煮込む。これを「煮返し」という。
「味をさらに染み込ませるということと、殺菌的な意味合いもあります。煮返しをしないで握るお店もあるようですが、ウチの場合は熱い油揚げで握るんですよ」。
一方、酢飯に用いるのは会津産のコシヒカリがメイン。4升炊きの炊飯器4個分(16升)で一度に炊き、炊き上がった米を直径2m ほどの飯台に移す。扇風機で冷ましつつ、500g ほどの粗塩を加えた赤酢を素早く回しかける。そして、ごはんのダマをなくすように大型シャモジを切るように動かす。こうすることで米が潰れず、早く冷ますことで米がべちゃつかなくなる。これらはすべて職人の手作業だ。また、一般的な米酢に比べて赤酢は酸味が少なくまろやかなのだという。
「昔からいなり寿司は作って数時間経ったのが美味しいとされてきましたが、以前、NHKの「ためしてガッテン」でこれが科学的に証明されました。油揚げの甘みと、シャリの塩味、酸味が融合するのに1~4時間かかるんですよ(笑)」と勝信さん。
職人は1時間に150~200個のいなり寿司を握る。まったく無駄のない流れるような手さばきだが、驚くのは握るシャリの量が計ったように45~50g なのである。このサイズが、口に含んだ際にシャリと油揚げのバランスが最もよく、その量を職人は感覚でつかんでいるのである。
神田っ子のソウルフードともいえるいなり寿司は、職人たちの手によって今日も一つ一つ丁寧に素早く握られているのだった。

二口で食べられるように1個あたりのシャリの量は45〜50g。そして、この量が油揚げの大きさと最もマッチするのだという。しのだは5個入りが税込724円※、9個入り1,242円※、12個入り1,685円※で販売している。

清潔感のある1階の販売コーナー。閉店時間近くになると品切れ商品も増えてくる。新宿の伊勢丹本店にも店舗が入っている。

淡路町に建つ本店のビル。昭和37年に建てられ、2010年に改修された。

4代目の原田勝信さん(65)。昨年から須田町北部町会の会長も務めている。

※金額は『法人なかま』発行当時のものです。

レポート◎山根和明(広報委員会)

食いしん坊手帖 vol.16

神田志乃多寿司

東京都千代田区神田淡路町2-2
電話:03-3255-2525

  • 営業時間
    【月・水・木・金】
    7:30 〜 17:00
    【月・水・木・金】
    7:30 〜 16:00
  • 定休日
    火曜日

当ページに掲載している情報は、『法人なかま』発行当時のものです。現在の情報とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

PAGE TOP