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伝統芸能の普及、発展を応援 「能楽タイムズ」の発行半世紀

株式会社 能楽書林




平成2年に竣工した社屋。
壁面のブロンズ製「翁」の能面が印象的だ。





「もっともっと能に親しんでほしい」と五代目社長の丸岡さん。


 格式ある檜舞台に繰り広げられる幽玄の宇宙−能・狂言は日本有数の伝統芸能でありながら、ごく限られた愛好家だけの閉鎖された世界だと思われがちだ。しかし、数年前ユネスコの世界無形文化遺産の第一号に指定され、禅や茶道や歌舞伎を越えて国際的に認知された。専門書の出版に始まり、その普及を目的とする新聞を発行して半世紀あまり、老舗出版社の五代目社長の心意気を伺う。

─ご創業が明治40年ということですが。

 私の祖父の丸岡桂が30歳の時、「観世流改訂本刊行会」を起したのが始まりです。祖父は身体が弱く早逝したため、祖母の貞子が継ぎ、私の伯父・明、父・大二そして私で五代目ということになります。曾祖父の莞爾は土佐藩士の出で維新政府の文官、高知県知事を務めた人で、歌を詠み、謡曲を趣味としていました。その血が流れているのでしょうか。

─創業者は多才な方だったようですね。

 二十代に、歌集を出しています。晶子の「みだれ髪」に先行する浪漫歌集です。また発明家としての顔も持っていて20歳の時、ヘリコプター式の飛昇機を作り試験飛行をしたということです。ライト兄弟とほぼ同じ頃。明治のおおらかな気風があったのでしょうね。出版の方では、従来の謡本の節付けを正しく、易しく一新した改訂本を発行し、謡本に革命をもたらした、と高く評価されています。
─そして、貞子夫人を経て明氏の時代。

 伯父は「三田文学」系の作家で、弟の私の父とは六つ違いでしたが、祖父が早逝したため当主として大きな存在でした。戦後は同人で原爆作家として名高い原民喜さんや後輩の遠藤周作さんもよくここに顔を出し、一時期「三田文学」の発行元だったこともあるようです。

─この社屋、随分立派な建物ですね。

 昭和6年の建築で戦災をくぐりぬけた旧社屋も、雨漏りがひどくなり、扱ってる商品が何しろ紙ですから仕方なく平成2年に建て替えました。昔のイメージをできるだけ残す形で。古いお客様には昔とあまり変わらないね、といっていただいています。

─五代目を継がれたのはすんなりと?

 伯父が亡くなる時に枕元に呼ばれて、「男はお前しかいないのだから」と。かなりのプレッシャーでした。父は言い出しかねていたらしい。本音をいえばしぶしぶ、でしょうか。

─「能楽タイムズ」は半世紀を越えているとか。

 前身は祖父が創刊した雑誌「能楽界」。タブロイド判の情報紙になったのが昭和27年。全国の能・狂言の催しを網羅しているのが特徴です。今年、能楽の普及、発展に貢献したということで法政大学能楽研究所から「催花賞」をいただきました。能は特異な芸能です。観客は少しずつ増えているのですが、お稽古をする人口を増やさないといけません。ワークショップ的なもの、講義を聴くだけでなく、舞ってみる、楽器を演奏してみるなどの体験教室を増やしていきたいですね。



創業者丸岡桂は発明家の顔も持つ多才
な人だったという。彼が製作した人力ヘリ
コプターは日本最古の航空機といわれる。



観世流謡本をはじめ、専門書から入門書まで
多様な能楽書が店頭に並ぶ。



月間「能楽タイムズ」は、
創刊から50年を越えた。
会 社 名株式会社 能楽書林 のうがくしょりん(創業1907年)
住  所東京都 千代田区 神田神保町3-6
電  話03-3264-0846(代表)
事業内容月刊能楽タイムズの発行、能楽関連書籍の出版、販売


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