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遡れば何と800年、伝統の刃物専門店。

打刃物司 菊一文字




ショーウインドウにびっしり並ぶ刃物たち





菊一文字の看板は信頼の証明

 以前からちょっと気になる店だった。小川町の交差点角、菊一文字という変った店名、店頭に並ぶ刃物の数々。専門家向けの店なのかな、などと思いつつ中に入るのをためらっていた。今回、その品揃えの豊富さにまず驚かされた。各種包丁から鋏、鉋、彫刻刀、爪切りまで、いうなれば小さな「刃物の博物館」。我々の暮らしに、刃物がいかに欠かせない道具であったか、改めて思い知らされた。

─ご先祖をたどると鎌倉時代とか。

 言い伝えですけど源頼朝の時代、後鳥羽上皇の御番鍛冶として仕え、功あって作刀に菊の御紋をいただき、その下に一文字を彫ったことから「菊一文字」と呼ばれるようになったというのです。以前、侍従長(当時)の入江さんが店に見えた時、天皇家の菊の御紋が決まったのはちょうどその頃、と教えていただきました。

─その後はずっと京都ですか?

 京都で家庭用の刃物も扱う店を出したのは明治の廃刀令以降で、それまでは大坂の堺(泉州)で鉄砲や刀を作っていて、泉という姓も泉州からとったらしい。京都は料理、工芸、宮大工など刃物の需要が多く、評価を高めていったと思われます。東京・神田へは戦後の昭和29年で今年50年目。賑やかな一等地、職人の町だったことも理由の一つでしょう。

─泉さんがご商売を継がれたのは。

この刀匠の血筋、実は家内の方なんです。昭和34年の結婚が縁でこの道へ。それまでは写真機材の仕事をしていました。祖父が「もう店を手放そうかと思う」と言うのを聞いて、伝統を途切らせるのはもったいない。それじゃやってみるか、と。刃物の世界に入るなんて、思いも寄らないことでした。

─刃物という商品の特殊性、難しさは。

いい物なら何十年と使えます。数が出る商品ではなく、地味な商いです。生活様式が変って家庭用の刃物は減る傾向です。それと道具の良さは評価されにくい。いろいろなモノづくりの土台のところで刃物が使われるのですが、料理人や器は表舞台に出るが包丁は影の存在。それを作った人も。しかし、いろいろな分野の専門家、刃物にこだわるプロの方々からは「ここのでなければ駄目だ」と言っていただける。「切れ味」というのは日本独特の感覚なんでしょうか。でもこれを一度覚えると、なかなか忘れられなくなるらしいです。

─お客さんの相談に乗ったりとかも。

 どんな用途、どんな目的で使うのか。いま使ってる道具のどこがどう不都合なのか、まず言っていただく。それと腕に見合う道具ということ。これは高価だし研ぐのも大変。腕を上げるまではこちらで十分ですよ、などと若い板前さんにはアドバイスもします。




「刃物には規格化できない難しさがある」と泉さん





「切れ味」という付加価値は何物にも変え難い
─最後にこれからのことを少し。

 全国のいろいろな分野の専門家からの特注品を伸ばしていきたい。製造販売といえるのは、製品にうち独自の味付け(刃や形など)をしているから。長男が京都本店、次男がここで職人気質のいい仕事をしてるんだけど、もう少しコスト意識をもってほしい、と思う。手間暇のかけすぎ(笑)。
会 社 名 株式会社 菊一文字 きくいちもじ(創業1876年)
住  所(東京店) 千代田区 神田小川町2-1
電  話03-3292-8511(代)
事業内容各種刃物の製造販売

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