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古書肆(こしょし)100年の信頼 更なる活性化への道探る。

古書の 一誠堂書店




三代目を継ぐことになっている酒井健彦さん
膨大な書籍を背景に



 凝った和紙製のもう一枚の名刺には、緑山の印。酒井農園 園主 酒井緑山とある。何のことかと思ったら「屋上に農園を作っていまして。果物中心の。ほんの冗談ですよ。」という。世界に名だたる古書街の、中でも有数のお堅い古書を扱う老舗の主人にしてこの遊び心、何とも嬉しい話ではないか。

─ご創業からちょうど100年。

 私の祖父が郷里の新潟・長岡で創業したのが明治36年。初代酒井宇吉。その三年後神田に移転しました。二代目宇吉が私の父です。高齢のため、正式には継いでいませんが私が三代目ということとなりますが。一昨年が創業100年にあたり、如水会館で記念講演会、ホテルグランドパレスにて古書展示即売会、記念パーティなどを催しました。

─神田の古書街は国際的にも有名ですね。

 明治から大正にかけてこの界隈には知識階級が多く居住していたし、大学がどんどん出来ました。初代が開業した明治39年の統計によると、東京の本屋さん384軒のうち104軒が神田周辺でした。当店は大正2年の大火で焼けて、関東大震災でまた。これに懲りて昭和6年に鉄筋のビルにしたのが今の建物で、戦災では幸運にも焼け残りました。専門の分野としては洋書を含めて文科系の古書籍全般。それと古典籍。欧米の主たる大学、図書館などとの取り引き、これは戦前からずっとです。

─この古書街には一誠堂の出身者が多い。

 祖父がおおらかな人だったのでしょう。独立するなら近所で一緒にやろうや、と。出身者の会があって、年に一度旅行したりして親交を深めています。それとこの街には「お互い様の精神」があります。例えばお客様の本探し。「うちにはないけど、あそこで聞いてごらんなさい」という感じで。全体の発展を考えるといった気風ですね。常時開かれている古本市も、情報交換の場、連帯意識を高める場。それほど密じゃないけどつながっている。ネットワークのようなものがあります。

─若者の活字離れがいわれてますが。

 少子化で大学は冬の時代とか。私どもも例外ではありません。大学、自治体は図書予算の縮小など、厳しさは増すばかり。インターネットで国際的に通用する古書籍を紹介したり、個人向けの目録を出したり手は打っていますが。もう半世紀近くになる古書まつりも年1回の行事として定着していますが、これからは街全体で、グループで、何か時代にマッチした斬新な企画を考えて、実践する時かも知れません。

─印象に残るお客様のことなど。

 文豪といわれる先生方もよくいらっしゃいました。お一人あげると松本清張先生。創業90年誌は俺が作ってやる、とおっしゃって、資料集めにかかっておられたのに急逝されて。これが果たせずとても残念です。

─酒井さんがこの道にお入りになったのは。

 国文科を出て書誌学の研究所に二年間。道がふさがれてしまって(笑い)、継がざるを得なくなった。これまで、いろんな分野の先生方に親しくしていただき、学問に対するその姿勢から、専門家の厳しさを学びました。私の宝物だと思っています。



昭和6年建築の本店ビル。
当時としてはモダンな造りだった





国内外の質の高い古書籍の
品ぞろえを誇る





昨年完成した「創業100周年記念誌」
創業者・酒井宇吉の写真も

会 社 名合名会社一誠堂 いっせいどう 書店(創業1903年)
住  所東京都 千代田区 神田神保町1-7
電  話03-3292-0071
事業内容文科系古書籍、古典籍、欧文文科系古書籍などの販売

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